言い訳できない

嶋田ちか

いないのと同じ

「すみません、ちょっとパソコンの調子が悪くて」


またか、とあきれた口調の上司。


時刻は10時15分。

タバコ休憩をしていたら15分遅刻していた。


まあ、パソコンの調子が悪いのも嘘ではない。少し動作が重くなることは何回かある。


嘘ではない、だから問題ない。


俺はそうやって生きてきたんだ。


―――――――――――――


仕事を終えて合コンに向かう。彼女はいるのだが、最近マンネリ化していて新しい刺激が欲しいのだ。


相手は以前ナンパして飲んだ女の子達。また飲みたいね、ということで合コンになった。


3対3の合コンはいつしか1対1に。


俺の隣にはピンク色のフリフリを着た女がついた。

酒のせいか、とろん、とした目をしていて、なんというか、チョロそうな女だ。


「えーすごいかっこいいのに彼女とうまくいってないんだー」


女が俺の腕をさわさわしながら語りかけてくる。ほんとにめんどくさい。


「まあつまんない女でさ、俺のやることに文句言ったり、すぐ怒ったりするんだよ。うまくいってないというか、もう終わりだね。だからいないと同じだよ。」


へえ、とチョロい女が言う。


まあ嘘ではない。終わってない、が、終わってるようなもんだ。


その日は友人の予定があってすぐにお開きに。二次会もなく興ざめだし、今帰ると早すぎて暇だ。コンビニに寄って彼女の家にでも行くか。


そう思って彼女に連絡してみる。


しかし既読がつかない。

LINEだと気づかないのかと思い、電話に切りかえてみる。


鳴り続ける音。だが応答はない。


寝てるのだろうか。何度がかけているものの、一向に出る気配がない。


まあいい、鍵はある。


出ないのが悪いよ、あいつが。こっちは何度もかけたんだし。


気づくと彼女の家の前だった。


部屋は電気がついており、テレビの音が漏れている。


カバンから鍵を取り出しドアを開ける。



ピチャ



玄関に踏み込むと水音がした気がした。

足元を見て血の気が引くのを感じる。


嘘であってくれ。


夢であってくれ。


そう願ってももう遅い。



俺は言ってしまったことの重さを今さら思い知った。





















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言い訳できない 嶋田ちか @shimaenagon

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