厄災の真実


 …………俺を守ってくれたのか…?


 俺が岩の化け物に殺されそうになったところまでは分かっているが、その後にいったい何が起こったのか分からない。


 「……その岩の残骸は………あのゴーレムなのか?」


 「……そう」


 「どうしてゴーレムがバラバラに壊れているんだ?」


 「…貴方を殺そうとしたから止めた」


 「………どうして俺を助けたんだ?」


 「……一緒にご飯……食べたかったから」


 俺の出したあの条件は魔王たちの贈った服や宝石を超えることが出来たのだろうか?


 「その……なんていうか……ありがとう……」


 まだ腐敗の女神への警戒は完全には解いてないし、村のみんなを苦しめた存在だと分かっている。だけど今は人間の土地側への移動を一旦止めてくれたことと俺を殺そうとしたゴーレムを倒してくれたことには感謝したかった。


 「助けてくれてありがとう」


 「ん……じゃあご飯を食べよう」


 腐敗の女神は俺の腕を取り小屋の中へ戻った。


 そして小屋の中に戻ったらすぐに彼女はフフの実を渡してきた。


 「はい」


 「……いや美味しいご飯ってこれのことじゃ無いんだけど…………」


 「……?腐敗してないのはこれしか無い」


 彼女の中ではご飯っていうのはこれしか無いのか………なんか可哀想に思えてきたな。


 「俺が王都まで行っていろいろな食べ物を買ってくるよ」


 王都までは結構遠いから保存の効くような食材に限られるけども。


 「じゃあいらない」


 「は?」


 「ここにいて欲しい」


 「だが美味しい食べ物を食べたいから魔王のお願いを断ってゴーレムから俺を守ってくれたんじゃ無いのか?」


 「一緒に居てくれたらそれでいい」


 「でもなぁ……」


 彼女は確かに世界の敵だ。だけど倒れた俺を介抱し、殺されそうになったところを助けてくれた恩人である彼女に言った美味しいご飯を食べさせるという言葉を反故にはしたく無かった。


 「それに外から食べ物を持ってきてくれても私に近づけたら腐ってしまう」


 「俺が食べ物を持って来る間は腐敗させる能力を消しておけばいいんじゃ無いのか」


 「消せない」


 「え?」


 「腐敗領域は私の能力じゃなくて私にかかっている呪い。私の意思では消せない」


 「………は?」


 じゃあ何か?彼女は人間が憎いからとか人間をどうでもいいと思っているわけではなく彼女自身も腐敗領域の被害者の一人ということか?


 それが事実なら彼女は、消したくても消せない周りを腐敗させる能力のせいでずっと一人で生きて、不味い木の実しか食べられるものもなく普通の服も着る事が出来ず周りから恐れられている可哀想な女の子になってしまう。


 なら俺たちは、村の人たちは一体誰を恨めばいいのだ。そして彼女はいったい誰を恨めばいいのだ。


 「その話は……本当なのか?」


 「本当」


 知ってしまった彼女の境遇はあまりにも救いが無かった。


 「……そんな………なら俺は……」


 知らなかったとはいえ俺は初めて彼女と出会った時に首を絞めて殺そうとしてしまった。こいつさえ居なくなればと思ってしまった。俺はなんてことを……しようとしてしまったのか。

 

 「す、すまない………」


 彼女の手を取りただただ謝るしかなかった。


 「……?」


 彼女は、跪き泣いてる俺の頭を抱き寄せ撫で始めた。


 俺は彼女に慰められる資格はない。彼女を殺そうとしたのは他ならぬ俺なのだ。


 「俺は……君を殺そうと……」


 「私は死なない」


 「でも俺は君の首を絞めて……」


 「女神に死という概念はない」


 「そんな…」


 じゃあ彼女は死を選ぶ自由すらも無いのか。これからも彼女は死ぬこともできず、どこで生きていけば、誰と生きていけばいいのだろうか。永遠に一人なのだろうか。


 「……………やっぱり俺、君に美味しいご飯を食べて欲しい」


 「……」


 「明日の朝になったらまた話そう」


 「……………じゃあこっち」


 そういうと彼女はベッドの方に俺を連れて行きまた横になるように催促してきた。


 「寝て」


 「………せめて手を繋ぐぐらいでお願いします」


 「いや」


 彼女はゴーレムが訪ねて来る前の時のように俺を抱き枕にしてきた。


 くっ、これで少しでも償いになるのなら……!!










 朝になった。


 女の子に抱きつかれて眠るなんて経験は前世でも今世でもなかったから案の定緊張して眠れなかった。


 「起きて」


 「……起きてるよ」


 「一緒にご飯」


 「そのことなんだけど……王都に行かないか?」


 「……おう…?」


 「人が沢山いるところだ」


 「でも私が行くとそこにいる人間達は死んでしまう」


 「まあ、任せて欲しい……俺にいい考えがある」


 腐敗領域が彼女にかかっている呪いなら俺が触れている間は大丈夫なんじゃ無いだろうか。……多分


 「分かった」


 「とりあえず俺の手を……」


 握ってくれと言う前に彼女は俺の手を握っていた。


 「握った」


 「お…おう、じゃあ森から出てみようか」


 「え?」


 「大丈夫、俺を信じてくれ」


 ………ただよければ今手持ちが無いのでそこに積まれてる宝石を一つ下さい。







 信じてくれとは言ったものの一抹の不安があったので腐敗領域から出る時は俺の住んでいた村とは別の方向から出ていくことにした。


 しかし不安とは裏腹に彼女と手を繋いだ状態で歩いていくうちに茶色と緑の大地の境界線が見えてきた。


 後一歩踏み出せば緑の大地に足を着けると言うところで、まだしていないことがあることを思い出した。


 「な、大丈夫だったろ?……えーっと……自己紹介何まだだったな、俺の名前はエデル・クレイル、君の名前を教えてくれ」






 「…………イリエステル……私の名前はイリエステル=スカーレット」


 

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