窓辺の日和

トン之助

キミと僕の間には

 あの頃の僕は自分の気持ちに嘘を重ねていた気がする。


 ――キミの為にやった事も。

 ――キミが気に入ると思って。

 ――キミが見たいと思ったから。


 全ていいわけに過ぎない。


 ――僕がキミの隣にいたいと思ったから。


 これが偽らない本当の気持ち。


 思えば人を好きになったのは初めてかもしれない。尊敬する人や憧れる人はいたけれど誰かの隣で一緒に歩いていきたいと思ったのはキミが初めてだ。


 最初に逢った頃は声を聞くのが稀だった。

 図書室では両開きの絵本が三冊程収まる距離。


 返事をするようになった頃は絵本が二冊になったっけ。


 深夜にキミを探しに行った時、辞書一冊分の気持ちを伝えた。


 そして卒業式の日に便箋一枚に改めて誓う。


 キミが好きだと。



「……んっ」



 そうそう。

 キミはこんな感じで声にならないような声を漏らしていた。


 窓辺から降り注ぐ陽だまりを浴びてキミはまるで猫のようだ。


「すぅー、すぅー」


 ソファの上で身動ぎ一つしたキミは僕の肩に頭を預ける。


 いつかキミは言ってくれたね。

 貴方に出逢えた事がわたしの一番の幸せだったと。僕は自分の方が強くそう思っていると伝えた時はちょっとした言い合いになったっけ。


 思い出してまた笑えてくる。

 キミのしっとりとした髪にほんの少しだけ触れてその可愛らしい額に口付ける。


「んふふっ……むにゃむにゃ」


 本当にキミは猫のようだ。

 司書という天職に就いたキミは毎日楽しそうにその日あった事を食卓で話す。昔、引っ込み思案だと言っていたけど今はどうかな。

 穏やかに過ごすキミを見てるとこっちまで温かな気持ちに包まれる。


 膝の上の開きかけの絵本が落ちそうになり僕はそっと本を閉じてタイトルを指でなぞる。



『桃の花をあなたに』

           著 神月さつき

           絵 神月弥生



 柔らかなタッチで描かれた読み聞かせにピッタリの絵本。



「パパ、ママ寝ちゃったね」


 キミと僕の間に座る天使の瞳が見つめてくる。


「僕たちもお昼寝しよっか」

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窓辺の日和 トン之助 @Tonnosuke

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