第41話・繰り返し

オババは手を離した。

エヴァルスとうぱは目を丸くしながらお互いの顔を見ている。

「あんたたちの繋がりは強めたよ。と言っても、道を太くしただけだけどね」

オババは白く濁った目を2人に振った。

その時、エヴァルスの腰に下がった剣に目を向ける。

「ほう、良い剣を持っているね」

「この剣ですか」

エヴァルスは鞘ごと剣を抜いた。

「以前、魔竜を討伐した時に作ってもらいました」

鍛冶屋の最期を思い出しているのだろう。

少しだけ声が震えていた。

「その剣はお前のために作られている。大事にするんだよ」

「オレの盾は?」

エヴァルスの剣を誉められて、タンクはうずうずしながら自分の盾を見せる。

オババは目を薄めながらタンクの盾を眺める。

「その盾は、同じ竜素材かえ?」

「そう、ウロコから作ってもらったんだが」

エヴァルスの剣とタンクの盾を見比べる。

魔竜の牙から研ぎ澄まして透き通るような白さを持っている剣。

ウロコをそのまま切り出して手に持てるようにした盾。

2人の武器を並べるまでも無く、同じ鍛冶師が作ったものにしては趣向が違いすぎるのは一目瞭然だった。

「なるほどねぇ。いい職人だったんだね」

オババは頷くとそのまま部屋の奥に行ってしまった。

取り残されたエヴァルスたちはどうしていいのか分からず呆然としていた。



長い、夢を見ているような感覚に陥る。

否。

とぎれとぎれであり、見ているモノが本当に自分の記憶か、それとも他人に記憶か分からなくなっている。

そばに居るアビオスが心配そうに低い唸り声を上げた。

「問題ないよ」

ボクに何かあるといつも自分のことのように励ましてくれる。

窓の外を見ると快晴である。

先ほどまでの夢見の悪さが嘘のようだ。

今見ていたのは魔女の集落に居た時の夢だろうか。

オババにアビオスとの繋がりを強めてもらった礼を言いたいが、まだ健在なのかボクには分からない。

アビオスは再び唸る。

「分かってる。切り替えるよ」

部屋の扉を開ける。

今日も向き合わなければならない。

世界を暴くために。

真実を掴むために。



結局オババが戻ってくることは無く、大樹の部屋を出て集落のtん策を始めた。

それというのもメイは自分の住まいを伝えずに去ってしまったため、どこに行ったのか分からないためである。

「それにしても、全部木なんだな」

タンクは落ち葉が重なった地面を歩きながら木々を見上げる。

住居と思われる場所はそこかしこにあったがすべて生きた木の中にくり抜かれていた。

「でもなんでわざわざ木の上で生活しているんだろう」

「それはね、土には不浄が溜まっていると古くから信じられているからよ」

木を見上げる2人の後ろからメイが声をかけた。

「遅いから探しに来た。そんなにこの木暮らしが珍しい?」

「他では見ないから」

エヴァルスの返答にメイは適当に相槌を打った。

「私には他の場所の家が想像付かない。話はウチで。明日には出たいから」

それだけ言うと踵を返して来た方向へ戻っていく。

2人は慌てて後を追った。


メイの棲む家にたどり着いた。

集落の外れ、寧ろ外と言ってもいいくらい周囲に木暮らしが無く、その位置も比較的低い場所をくり抜かれていた。

「入って」

膝程度の高さの段差を跨ぐと、こじんまりとした部屋が拡がっている。

中は一部屋。ベッドはふたつだけだった。

「明日の早くにここを出るわ。あなたたちの行くところについていく。どこに向かうの?」

メイは椅子を引っ張り腰かけると、立ったままの2人を交互に見比べた。

「座れば?」

メイはベッドのひとつを顎でしゃくった。

エヴァルスとタンクが座るには狭いベッド。

結局エヴァルスがベッドに、タンクはもう一脚あった椅子に腰を掛けた。

「で、どこに行く予定?」

「ニヒー」

タンクが地図を広げ指さした。

「ウソでしょ?あんな野蛮な街に?」

メイが顔をしかめるのは無理もなかった。

ニヒーは荒野の真ん中にある街でさしたる特産品も出土物もない。

ただ、その街の名前は魔女の集落に住んでいるメイすら知っているほどある有名な物があるのだ。

街の中心にある闘技場。

そこで闘士たちが日夜名誉のために決闘をしているのだ。

もちろん、その話は表向き。

その闘士の多くは金持ちに買われた奴隷であったり、犯罪者であるという噂が絶えない。

「伝承に則った旅路だから」

「オレらも行きたくねぇよ」

タンクの言葉にエヴァルスは睨む。

事前の相談はしていなかったようである。

「オレらって言うの、やめてよ」

「なんだエヴァ。行きたかったのか」

「そうは言ってない」

やはりエヴァルスも進んでは行きたくないようである。

「ところで、なんでわざわざ伝承を辿るの?」

幾度となく繰り返された言葉をメイも発した。

「別にいいでしょう?仲間と武器、なんなら守護をつれてそのまま魔王城で。伝承で仲間になる場所わかってるんだし」

メイの言葉は非常に合理的だった。

伝承に従えば主だった出来事の無い街は素通りできる。

次の目的地であるニヒーは伝承上で特に記されておらず、素通りで全く問題が無いように思われた。

メイ個人の事情もある。

荒野の真ん中にある街に、標的がいるとは考えにくい。

魔王討伐は二の目的。

要らない時間を過ごしたくはないのだ。

その考えはエヴァルスにもあった。

立ち寄らなければ起きなかった問題、救えた命が確かにあった。

「決まりね。今回ニヒーの街には寄らない。いい?」

メイはそれだけ言うと椅子から立ち上がり、ベッドにもぐりこんだ。

話は終わり、言葉に出さずとも態度で示していた。

タンクは椅子に座ったまま眠りについた。

エヴァルスは眠るわけでも無く、これからの旅について考える。

幾度も出てきた疑問。

同じ道を繰り返す意味はあるのかと。

膝の上に乗ったうぱは規則正しい寝息を立てていた。

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