第8話 市場でお買い物

 トリーシャのお腹が鳴った……!

 思いっきり大きな音だった。

 トリーシャの顔がみるみる赤くなっていく。


「あー腹減ったなあ……何か食べに行こうぜ」


 トリーシャのお腹の音には触れず、ご飯を食べに行こうと提案する。

 俺なりに、恥ずかしがり屋なトリーシャに配慮してみたつもりだ。


「そうですね。アルくんは何が食べたいですか?」

「うーん……ハンバーグが食べたいかな」

「ハンバーグですか。アルくんは子どもですね」

「トリーシャの作ったハンバーグ、食べたいなー」

「わかりました。材料を市場に買いに行きましょう」


 ◇◇◇


 俺たちは王都の市場へやって来た。

 俺の住む魔術師地区の隣、商業地区にある。

 王国の商人たちが集まって店を開いている。王都で一番賑う場所だ。


「うわあ。ここが王都の市場……」


 トリーシャは物珍しそうに周囲を見渡す。

 村の市場に比べたら規模も大きいし、王都にしかない店がたくさんあった。


「あ、すっごくきれい」


 トリーシャは店に並べてある水晶を指差した。


「あれはプラネタリウムって言うんだ。夜の星座を天井に映し出す魔道具だよ」

「え?自分の家でお星様を見れるの?」

「そうだよ。水晶に魔力を込めれば、水晶が光出して星座を作るんだ」

「へえぇ……すごい」


 子どものようなキラキラした目で水晶を見つめるトリーシャ。

 昔からトリーシャは星を見るのが好きだった。


「……ハンバーグの材料買わないといけませんね。食材はどこで売ってるんですか?」


 「ほしい」と言えば買ってあげようと思ったけど、トリーシャはグッと言葉を飲み込んだようだ。

 ……素直じゃないなあ。かわいいけど。


「食材を買いに行きましょう」

「うん。食材はあっちで売ってるよ」


 トリーシャは名残惜しそうに水晶をチラッと見る。

 よほどほしいようだ。

 後でこっそり買いに行こう。


 俺たちは食材を売る店へ行く。

 野菜や肉や魚——王国中のあらゆる食材が集まる場所だ。

 

「お、玉ねぎを買おう」

「たあっ!」

「いって!」


 トリーシャは俺の右手をビシッと叩いた。


「野菜はちゃんと選んで買いましょう」

「いいじゃん。テキトーでも」

「アルくんはテキトーすぎます。いいですか。まず玉ねぎは、首と根の部分がぎゅっと締まって、表面の茶色い皮に艶があるものを選ぶんです」

「へえ。詳しいな」

「あたしはアルくんのお嫁さんになるんです。これぐらい当然です」


 トリーシャは澄ました顔をしつつも、声はどこか得意げだった。

 他の野菜もテキパキ美味そうなものを選んでいく。

 俺は素直にすごいと思ってしまう。


「あ!トリっちじゃん!」

 


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