わかってほしいの

口羽龍

わかってほしいの

 チャイムが鳴った。これからお昼休みだ。昼食を食べて一息ついていた中学生は、遊び始めた。その後、掃除をしてから5限目だ。


 だが、大熊雅也(おおくままさや)にはお昼休みがない。雅也はクラスの級長だ。今日は生徒会のミーティングがある。遊んでいる暇なんてない。行かなければ。


 雅也は生徒会室に行こうとした。副級長のあかりはすでに生徒会室に向かっている。自分も早く行かないと。


「雅ちゃん、遊ぼうよ」


 だが、出た所で遊ぼうと声をかけてきた男がいた。隣のクラスにいる友達、金子だ。雅也の幼馴染で、よく遊んでいる。


「今日は生徒会のミーティングなんだよ」


 雅也は断った。ミーティングに行かなければならない。今日はだめだ。本当にごめん。今日は他の友達と遊んでくれ。


「えー、遊ぶ約束なのに」


 だが、金子は引き下がろうとしない。遊びたいようだ。予定があるのに。


「行かないといけないんだ! 遊んでられないんだよ!」


 雅也は必死だ。行かなければならない。行かなければ生徒会のみんなに怒られる。わかってくれよ。


「そんなぁ・・・」


 金子は悔しがった。遊びたいのに。どうしてミーティングなんだ。ミーティングなんてどうでもいいのに。遊ぼうよ。


「もう行かなくっちゃ」


 雅也は走っていこうとした。だが、金子が引き止める。


「来いよ!」

「やめて!」


 雅也は抵抗した。だが、金子はそれでも引っ張る。


「遊ぶぞ!」

「ミーティングに行かないと」


 雅也は力ずくで引き離した。金子は驚いた。今までこんな事はなかったのに。何だろう。


「行かないともう遊んでやらないぞ!」

「それも嫌だ!」

「じゃあ、遊べよ!」


 結局、雅也はいやいやで遊ぶ事にした。本当はしたくないのに。ミーティングに行かなければならないのに。


 その頃、生徒会室では、雅也が来ない事でみんなが大騒ぎになっていた。副級長のあかりもそれを気にしていた。




 チャイムが再び鳴り、掃除の時間になった。雅也とあかりは同じ班で、同じ場所で掃除をしている。


 雅也は教室の掃き掃除をしていた。雅也はミーティングに来れなかったことで頭がいっぱいで、掃除があまりはかどらない。自分は悪くないのに。金子が悪いのに。


「ちょっと、どうしてミーティングに来なかったの?」


 何も知らないあかりが後ろから話しかけた。あかりはとても怒っている。雅也が来なかったために、みんな大騒ぎになっていた。その責任を取ってもらわないと。


「行きたくなかったのに、遊びに誘われた。本当は行きたくなかったのに」

「あんた、いつもそうじゃないの? 級長として失格ね!」


 だが、あかりは聞き耳を持たない。それを言い訳だと思われたようだ。本当の事なのに。わかってくれよ。


「それは誰かに誘われたからなんだ! 行きたくなかったのに」


 雅也は強い口調で、本当だと主張した。だが、あかりは信じようとしない。


「もう知らない」

「聞けや!」


 去っていくあかりを、雅也は冷たい目で見ていた。もうこんな奴、知らない。俺の事を全く信じない奴は、みんな俺の敵だ。




 帰って来てからの雅也の態度は、恐ろしかった。信じられないぐらいキレていて、母は心配そうに見ている。学校で一体、何があったんだろう。


「大丈夫?」


 母は雅也を優しくなだめた。もうこれ以上キレないで。いつもの雅也に戻って。お願い。


「どうしてわかってくれないの?」


 そう言って、雅也は暴れている。母は首をかしげた。学校で何かがあったんだろうか?


「どうしたの? どうして暴れてるの?」

「何でもないんだよ」


 だが、雅也は話そうとしない。そして、何かに怯えてるようだ。


「大丈夫かな?」


 母はその様子を見ている。学校で何かがあるはずだ。明日、中学校に連絡しないと。




 次の朝、いつも通り金子は中学校にやって来た。昼休みは楽しかったな。また雅也と遊びたいな。


「おい金子!」


 突然、金子は先生に話しかけられた。急に何だろう。何か悪い事をしたんだろうか?


「ど、どうしたんですか?」

「ちょっと話がある。職員室に来なさい」


 何か悪い事をしたんだろうか? 自分は悪い事をしていないのに。


「は、はい・・・」


 金子は先生の後に続いて職員室にやって来た。職員室には多くの先生がいて、朝活前に待機していた。


 金子と先生は応接間にやって来た。そこには誰も座っていない。ここで話を聞くようだ。


 金子は応接間の椅子に座った。応接間の椅子はフカフカで、リビングのようだ。だが、金子にはくつろぐ余裕がない。目の前には先生がいるからだ。


「ど、どうしたんですか?」

「金子、大熊が級長だって事、わかってるか?」


 金子は雅也が級長だという事を知っていた。でも、それが何だろう。金子は、昨日の休み時間に遊んだことを悪い事だと思っていなかった。


「はい」

「昨日の昼休み、ミーティングがあったって事、知ってるか?」


 ミーティングの事? そういえば、言っていたな。だけど、友達だから遊ぶのを優先した。悪い事ではないと思っていた。


「し、知らなかっ・・・、いや、知ってました」


 金子は知らなかったと言い訳をしようとした。だが、嘘を言えなかった。嘘を言うのは悪い事だと知っている。


「知ってたのなら、どうして遊ばせたんだ」


 先生は強い口調だ。行っていたのに、どうして遊ばせたんだ。そのせいで、雅也だけではなく生徒会全体が迷惑をかけたんだぞ!


「そ、それは・・・。と、友達だから」

「だけど大熊はミーティングがあったじゃないか!」


 友達だという事は関係ない。ミーティングが優先だ! それがわからないのか?


「そ、そうでした。ごめんなさい」


 金子は先生にビンタをされた。金子は呆然としている。自分のしたことで雅也は迷惑をかけた。申し訳ないと言いたい。


「それで大熊は怒られたんだぞ!」

「も、申し訳ないです」


 金子は泣きそうだ。自分はとんでもない事をしてしまった。雅也に謝らなければならない。


「今朝、登校したら謝れよ」

「わ、わかりました・・・」


 金子は応接間を去っていった。先生はその様子をじっと見ている。




 それを知らない雅也は、金子より少し遅れて登校してきた。雅也は昨日から態度が変わっていない。もう誰も信用できないようだ。


 雅也は教室に入った。そこには金子がいる。どうしてこの教室にいるんだろう。


「おはよう」


 挨拶をすると、金子がやって来た。雅也の声に反応したようだ。どうしたんだろう。雅也は首をかしげた。


「昨日はごめんね」

「えっ!?」


 雅也は驚いた。もう許してくれないと思っていた。


「予定があったのに誘ったからだよ」

「わかってくれて、ありがとう」


 雅也と金子は握手をした。これからまた仲よくしよう。


 金子は隣の教室に戻っていった。それと入れ替わるように、1人の女がやって来た。岡村だ。岡村も幼馴染で、雅也と最も親しい女友だちだ。


「大丈夫だった?」

「うん」


 岡村は笑みを浮かべた。昨日の事を知っているようだ。


「実は、私が言ったの」


 実は、昨日の事を先生に言ったのは、岡村だった。雅也は遊びにいやいやで誘われていた様子を見て、かわいそうだと思ったようだ。


「そ、そうなんだ。ありがとう」

「どんなことがあっても、私はあなたの味方だよ」


 雅也は笑みを浮かべた。こんな時こそ、友達は頼りになるな。これからも仲よくしていこう!

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わかってほしいの 口羽龍 @ryo_kuchiba

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