シュガーの言い訳

梅雨日和

目の前の鏡は僕を映さない

 私は男だ。男だけど、女の格好をしている。ただこれは、生存戦略の末に私が生み出した、生き残るための一つの方法だった。


 同じタイミングで、同じ親から子供が生まれるのは、この世界では不気味で、おかしいらしい。


 実の親から暴力を振るわれた。同じ顔は気持ち悪いから、出ていけとさえ言われた。


 ソルトは私の写し鏡だった。ソルトが笑っていれば、私も笑っていたし、ソルトが泣けば私も泣いていた。


 私たちは夜逃げして、誰も私たちの知らない場所へ向かった。そこで私は女装をして、ソルトは僕達のままでいた。


 そうしたらどうだろう。僕達は僕達として暮らしても良くなった。


 生まれ方なんて関係なかった。


 ただ月日が経つと、僕はソルトと同じように背が高くなり、筋肉がつき、喉仏が出て、声が低くなった。


 首元の隠れる服を着て、体つきが分かりにくいドレスを身に纏い、髪もかなり伸ばして、声を出さないようになった。


「シュガー」


 ソルトは、今にも泣き出しそうな顔で、シュガーを見た。そんな顔をしたいのは僕の方だ。


「……」


 ソルトとは生まれる前からずっと一緒で、喋らなくてもジェスチャーだけで、僕のことを理解してくれる。たった1人の友達であり、兄弟であり、理解者だった。


 ソルトの為に僕は女装をしている。着たくもないドレスを着て、髪も鬱陶しいぐらいに長く伸ばし、化粧だって覚えた。


 だけどこれは、汚い汚い僕の言い訳だ。


 僕はただ、この世界に拒否されることが嫌だっただけ。存在価値がないと言われるのが怖かっただけ。誰にも必要とされていないと、気づいてしまうのが恐ろしかっただけだった。


 なのに僕は、君を綺麗なままにしていると見せかけて、きっと君を苦しめている。


「シュガー……。この世界が俺たちを否定しても、俺たち2人きりになってもいいから、シュガーはシュガーでいてくれよ」


 無言のまま僕がにっこりと微笑んでも、目の前のソルトは泣いていた。

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シュガーの言い訳 梅雨日和 @tsuyuhiyori

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