探偵のいいわけ

ヤミヲミルメ

探偵の過去

 親愛なる我が読者よ、何を驚いているのかね?

 汚くて当たり前じゃないか。

 ここは探偵事務所なのだから。

 掃除が得意な人間は、探偵ではなくハウスキーパーになるべきだ。


 いいわけしてないで片付けろって?

 まあそう言わずに。


 いや……その……資料を整理していたのだよ。

 古い事件ばかりだが、キミが興味を持ちそうなものもあるぞ。


 わざわざ棚から出して、これ以上、散らかすなって?

 わかったわかった。

 この一件だけだ。





 現場はとある探偵事務所。

 室内はひどく散らかっていた。


 察しがいいな。

 まさにこの部屋で起きた事件だ。


 とはいえ昔の話だ。

 当時の私は学生で、バイトで所長の助手をしていた。


 助手は複数いたが、その日は私以外の全員が、それぞれに担当する事件の調査で出払っていた。




 第一発見者は、事務所を訪れた飛び込みの依頼人だった。

 補足しておくが、この依頼内容は事件とは無関係だ。


 依頼人が事務室のドアを開けると、普段から散らかっている部屋の中央で所長が倒れていた。


 所長の周囲には花瓶の破片。

 数枚の書類が所長の下敷きになっていた。


 依頼人は、現場から逃げようとしていた探偵助手を取り押さえた。


 助手は自分が所長を花瓶で殴ったのは認めたが、殺意は否定。

 所長のほうから襲いかかってきたため、近くにあったものを振り回して抵抗してら、たまたまそれが花瓶だったと弁明した。


 所長の傷の位置が体の前側なら、助手の言う通り、正当防衛の可能性が高いだろう。

 反対に後頭部に傷があれば、助手は所長を背後から殴っているわけだから、殺意があったと考えられる。


 傷は、所長の頭のてっぺんにあった。

 前でも後ろでもなく、てっぺんに、だ。


 探偵助手に殺意があったか、なかったか。

 推理してみたまえ。

 シンキングタイム・スタート!




  ↓



  ↓



  ↓



  ↓



  ↓




 答えは出たかな?

 何? キミが考えている間に私は掃除を進めるべきだったって?

 いやいやいや、思考の邪魔をしては悪いかと思ってねっ。


 それよりも、いかにすれば人の頭を、前でも後ろでもなく真上から殴ることができるのか、だ!




 所長はね、床にしゃがみ込んでいたんだよ。

 散らかし放題の部屋の中、床に置いていた書類を拾って、そのまま床に座って読んでいたんだ。

 そこを助手が花瓶で殴った。

 助手は殺意を持って一方的に所長を殴打したんだ。


 動機については所長に聞いても教えてくれなかったが、あの所長のことだし金か異性関係か両方かだろう。


 ん? 所長は今も元気だぞ?

 とっくに引退して、私が事務所を継いだがな。

 殺されたなんて一言も言っていないだろう?


 ついでに言うと、タイミングよく現場に現れた依頼人は私だ。

 探偵助手だからって探偵に依頼をしてはいけないわけではない。

 飛び込みの依頼人が、応接室ならまだしも『事務室のドアを開け』ている時点で気づいてもらえてると嬉しいな。

 抜き打ちテストの日程と内容を所長に調べてもらいたかったのさ。




 もしかしてキミ、私が犯人だとでも思ってたのかい?

 いいわけがあるならコメント欄で聞こうじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵のいいわけ ヤミヲミルメ @yamiwomirume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ