第4話


 俺は隣の席の美少女をちらと横目で見る。


 綺麗と可愛いの中間の美少女。制服を押し上げる張りのある胸に、引き締まった健康的な手脚。背丈は150半ばから後半くらいだろうか。青春ドラマの主役を張れるような理想的な女子って感じがする。


 ただ髪が、黒よりの青というところに、残念さを感じる。別に嫌いな色ではないのだけれど、何となく残念さがあった。


 うーん、話って何だろうか。もし、本当に人間違えなら物凄く気まずい。誤解を解くべきなのかな。


 なんて考えが終わらぬまま休み時間になると、俺は切っていた配信をすぐにつけ、ノートにあらかじめ書いていた文字をカメラに映す。


『休み時間になりました』


 <お、配信再開

 <きたあ

 <待ってました!


 コメントの勢いがすごい。同時視聴者数も100人を超えている。転校の挨拶のことは話題になったのかもしれない。


 そう思った時、隣の席の美少女に声をかけられた。


「花ノ木くん、ついてきてくれるかな?」


 言われたままについていくと、教室内がざわついた。


「お、おい。転校生と夏生さんが2人で出ていくぞ」

「い、いったい、どういうことだ?」

「まさか、俺たちのヒロインと恋人!?」


 という展開にコメントは大盛り上がりだ。


 <テンプレ反応すぎて草

 <おい良かったな、夏生さんはヒロインらしいぞ

 <恋人、いえ、初対面の他人です

 <まだ歯を見せるな。人違いとは決まっていないだろ


 何か言い返したい気持ちはあったけど、急に話しだしたらヤバイやつなので、黙っておく。もう十分やばいやつだけど。


 誰もいない階段の踊り場までくると、夏生さんは眩しい笑顔で言った。


「久しぶりだね」


 <本当に幼馴染みのパターンwwwww

 <確定して草

 <人間違いですw

 <その人、幼馴染みじゃないですw


 大爆笑のコメ欄だけど、俺の方は胃が痛いんだけど。


「あの、久しぶりじゃないと思うんですけど。記憶にないですし」


「あっ、わからない? そうだよね、当時は男の子みたいな格好してたもんね」


 <えへへ、って照れてますけど、もっと恥ずかしいことになってますよ

 <貴方、その人他人です

 <やばい、人間違えでこんなこと言うのを想像するだけで死ねる

 <俺まで恥ずかしくなってきたw


「えっとそのぅ、記憶になくて」


「かーくんは覚えてないの?」


 <かーくんって誰だよw

 <か、か、かーくんwww

 <草すぎて草


「ほら、昔、よく一緒に公園で遊んだよね?」


「えーっと、そのぅ……」


「まだ思い出せない? 鳩追いかけて体力尽きて、生き倒れてたところを助けてもらった広末夏生だよ!」


 <どんなところだよ草

 <とんでもない秘密を喋ってて草


 やばい。俺がはっきりしないせいで、聞かなくていいことまで聞いている気がする。


 これ以上要らないことを聞いたら、気まず過ぎて別人と言い出せなくなりそう。早く誤解をとかないと。


「ごめん、人違いだと思う」


「そっか。そうだよね、小さい頃の思い出だから忘れてても仕方ないよね。でも、私にとっては今もすっごく大切にしてる思い出なんだ」


「や、本当に人違いだってば」


「ううん、それはない。だって、約束のブローチを持ってるよね」


 <約束のブローチで草

 <昨日買った54円のです

 <めちゃくちゃ誤解してて草


「持ってるそれ、約束のブローチだよね?」


 夏生さんが期待に満ちたキラキラした目をしてる。


 い、言えない。昨日、中古で買ったものだなんて……。


「いやこれは……」


「覚えてないと思うけど、再会したときに2人で中の手紙をあけようって約束したんだよ。ほら、これ」


 <か、鍵のネックレス取り出したw

 <やばいぞ、絶対開かなくて気まずくなるw

 <逃げたいwww


「これで開けたら全てわかるよね? ブローチ貸してもらっていい?」


 え、その、やめたほうがいいよ。って言っても仕方ないよな。もうここで渡して、別人だって知ってもらおう。


「ありがとう。じゃ、私の鍵で開けるね。あ、開いた」


 <え……

 <開いちゃった

 <どういうこと?

 <本当に約束のブローチだった?


「あはは。ほらね、言ったでしょ?」


「え、本当に開いちゃった?」


 <マジで驚いてるぞ

 <ってことは、約束のブローチ、かーくんに売られてんじゃん

 <う、売られてwwwwww

 <た、大切な思い出売られて54円wwww

 <可哀想過ぎて草


「中に手紙が。うん、読むね」


 <ダメだ、やめろ! 

 <夏生! そいつはかーくんじゃない!

 <子供の頃の大切な思い出はしまっておけ! 


「かーくんへ。これを読んでいるということは再び出会えたんだと思います。私、素敵な女の子になってるのかな? なってるといいな」


 <だからかーくんじゃないって!

 <素敵な女の子にもなってるけど、とんでもなく恥ずかしい女にもなってるぞ!


「かーくん。お別れするときは辛くて言えなかったけど、未来の私は言ってくれると思います。一緒に遊んでくれて、楽しい時間をくれてありがとう。そして私はかーくんのことが好きになりました。結婚してください」


 <別人にプロポーズしてて草

 <結婚するつもりの男の子に、思い出のアクセサリーをリサイクルショップに売られてて草

 <可哀想すぎるw


「あっはは。照れる、ね。でもさ、私、気持ち変わってないんだよ。ねえ、かーくん、結婚とはいかないまでも、お付き合いさせてもらえたらなあって思うんだけど?」


 <いじらしくて泣ける

 <夏生可愛過ぎか?

 <なお、別人の模様

 <き、きまじー。こっからどうやって別人って言うんだよ


 頬を染めて上目遣いしてくる夏生さんから目を逸らす。


 き、きまずい。


『貴方の告白相手、別人ですよ。本当の告白相手はこのブローチをリサイクルショップに売ってます』


 なんてどんな顔して言えばいいんだよ。言い出しずれぇ〜……。


 けど、言うしかないか……。


「夏生さん」


「嫌。昔みたいに、なっちゃんって呼んで」


 <やめてやれ、もう

 <やってるのは夏生なんだよな


「じゃあ、なっちゃん。伝えたいことがある」


「は、はい」


 <こいつ、本当のこと言うつもりだ

 <も、もう耐えれんwww

 <恥ずかしすぎるw


「俺、この町に縁もゆかりもないし、俺とかーくんは本当に別人だから」


 <言ったぁーーーー!

 <言っちゃったぁwww

 <ついに言っちゃった!!

 <なっちゃん、ポカンとしてて草


「本当、引っ越してくるまで、一回も立ち寄ったことがないから」


「え、じゃ、じゃあ、その帰ってきたなあって窓の外見てたのは!? 転校の挨拶は!?」


「あー、その、なんか悪ふざけで」


「うえ!? この人ヤバ! この人ヤバ!」


 <wwwwwww

 <そうだよ、ヤバイやつなんだよwww


「ってことは、私、何にも知らない人に、さも幼馴染みですよって、今まで……〜〜〜〜〜〜っ!?」


 <顔真っ赤過ぎて草

 <なっちゃん、目ぐるぐるで草なんよ

 <く、苦しいwww

 <恥ずかしすぎるw


「ま、ままま、待って! じゃあブローチは! 本物のブローチだったよね!?」


「昨日、リサイクルショップで買ったんだ。経費になるかと思って、領収書あるけど見る?」


 <ゆらがぬ証拠あって草

 <54円経費にしようとしてて草

 <なっちゃん、絶望的すぎるwww


「あ、ほんとだ。昨日の日付……5、54円。わ、私の思い出が売られてて54円」


 <なっちゃんの目が死んで草

 <ダメだ。可哀想すぎるけど、笑ってしまう

 <本当にごめん、なっちゃん。面白すぎるんだ


「初恋だったのにぃ。今まで恋心を大切にしてきたのにぃ。ひぐぅ」


 <泣いちゃった

 <可哀想なのに、可愛い

 <ごめん、腹抱えてる俺を許してくれ


「あ、その、ごめんね?」


「……忘れてください」


 <なっちゃん、ゆらゆらしながら行っちゃった

 <こ、これは酷いw

 <こんなラブコメがあってたまるかw


 あー、えっと、どうしよう。ものすごく気まずい。


 とりあえず、配信は終わろうか。


「あーえっと、初ラブコメはこんな感じでした。また配信するので、登録お願いします」


 こうして俺の初ラブコメ配信は幕を閉じた。


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