第2話
部屋の真ん中で大の字に寝そべり、天井を見上げる。
「ああ、ここ異世界ファンタジーじゃなくてラブコメ世界だ」
転生して1日が経ち、俺は気づいた。
どうして気づいたのか。
まず、俺の名前がおかしい。
花ノ木日翔(はなのきにちか)というのが俺の名前だが、花ノ木なんて苗字は日本にない。日翔というのも、二次元的なネーミングだ。
それに俺の生活環境、身分もラブコメっぽい。
俺は、両親の海外出張によりアパートで一人暮らしをしていて、明日から転入する高校二年生なのだ。こんなやつラブコメにしかいないだろう。
さらに、俺の見た目もそう。
黒目黒髪、中肉中背。上中下で言うなら、中の並の平凡の顔。綺麗な二重なのが救いなだけで、どこのラブコメ主人公って感じだ。
それに、とテレビをつけてみる。
『ネオちゃん、それはないでしょ!』
司会者、芸人、アイドル、右から順に青に、赤に、ピンクか。髪色がアイスクリームみたい。
テレビ人だからってわけじゃなくて、外に出れば色んな髪色の人がいる。それもラブコメ世界と思った材料だ。
んで、極め付けが。
『それでは歌います! らぶクレセントです!』
女の子が美少女すぎるんだよなあ。
この世界の美少女はとことん美少女だ。日本のトップアイドルですら書類落ちでアイドルになれないんじゃないかってくらい可愛い。
俺はむくっと起き上がり、頭を抱える。
何でラブコメ世界なんだよ……。
当然、この世界にダンジョンはない。昨日街で聞いても、現実にダンジョンなんてあるはずないだろ、って反応しかなかった。
「これじゃあダンジョン配信者になれないじゃないか!」
「ええ、なれませんよ」
不意に声が聞こえてみると、女神様がベッドに座っていた。
驚いたけれど、そういや後日伺うとか言ってたし、タイミングとしてはちょうどいい。今は聞きたいことがある。
「女神様。一般人が知らないだけで実はあるとかないです?」
「ここはラブコメの世界なのでないです。髪の色、容姿、ラブコメ的なお約束、そして、だれとも結ばれる可能性がある点以外は現実と同じですので」
「誰とも結ばれる可能性?」
「はい。例えば、アイドルやVtuber。現実では何をどうしようと結ばれる可能性は0%ですが……」
「0ってことはないんじゃない?」
「0です。女神が言うので間違いありません」
危ないこと言うなあ、この女神。
「ですが、この世界では少なくとも10%はあります」
「え、凄い……けど、そんなことはどうでもいいんです! 俺はダンジョン配信者になりたいんです!」
「無理ですね、他の世界へ転生させることはできませんし」
そんな……。
「では、仕事ですので、スキルの説明に入りますね。まず、カメラ、と念じてください」
もはやスキルなんてどうでもいい。
だけど、聞かないと損したような気がするので、言われた通りにやってみる。
何だこれ、ボールみたいなカメラが3つ浮いてるぞ。
「これがカメラになります。3つ存在し、スイッチしてくれたりしていい感じに撮影してくれます。これは貴方以外、見ること、知覚することができません。また、カメラと呼び出した時点で撮影は開始されています」
「はあ」
「続いて、配信準備、と念じてください」
また言われるがままにやってみる。
うわ。視界の端に、コメント欄と配信映像が出た。それに、メガネのレンズについた汚れみたいに、どこ向いても付いてくる。
「どうやら見えたようですね。あとは配信開始と念じれば開始され、配信終了と念じれば終了になります」
「そうなんだ」
「はい。あと、この世界での配信は、貴方が生きていた世界の動画サイトに配信されますので」
「それってどうなの? 齟齬が生じたりしない?」
「問題ないです。収益やら個人情報やら確定申告やらは適当にこちらでしておきますし、この世界での配信も違和感を感じないようにしておきます」
「違和感?」
「はい。例えばVtuber。あれ、本物が混ざってるんですよ」
「え、マジ?」
「なのに人は、アバターがあって中に人がいる、と人知の及ばない物に対して、理解できるレベルに下げてるんです。そんな感じで、この世界の配信も不思議に感じることなく視聴されるでしょう」
ええ、そうだったんだ……。
「最後に。配信の収益は景品に交換できます。お持ちのスマホでチャンネルページ、景品交換のページに接続できるようにしておいたので、あとで確認しておいてください。それでは」
女神様はそれだけ言うと、消えていった。
1人、ぽつんと部屋に取り残される。
スキルの使い方を聞いたはいいものの、ダンジョン配信者になれないなんて。
他の配信をしようにも、アホほど読んできたダンジョン配信者モノの知識以外に、バズれる要素は持っていない。
それに、モンスターを鮮やかに倒すから、褒められ、ちやほやされるのであって、普通の配信者ではそれらを望めない。
結論、何にもならない。
はあ。これからどうしたらいいんだ。
……とりもあえず、景品交換ページでも見てみるか。何か気分を晴らすお薬があるかもしれないだろうし。
スマホを、と。あ、見知らぬアプリがインストールされてる。多分これだろうな。
開いてみると、普通のチャンネルページだ。収益の説明もあるけれど、見た感じ普通のyoutuべと変わらなそう。
お、これが景品交換ページへのボタンか。じゃあ、タップして、うわ表が出てき……え。
好きな世界に転生できる権利=1億円。
沢山の景品があったが、一点にしか目がいかない。
1億円の収益を上げれば、好きな世界に転生できる、ということか?
もし、そうなら……やるしかない。
よし! 1億円稼いで、俺は今度こそダンジョン配信者になる!
でも、どうやって収益をあげる?
配信で稼がないといけないけど、何配信をすればいいのだろう。
ここはラブコメ世界だから、ラブコメ、か?
どうしよう。ラブコメなんて全然知らないぞ。でもまあ仕方ないから、俺のラブコメでも配信するか……。
ちょうど明日から転入するし、配信テストがてらにアドバイスでも聞く配信をしてみよう。
チャンネルページを開いて……あ、ここでタイトルを設定できるあたり、本家と同じだな。
じゃあタイトルは……うん。
『ラブコメ世界に転生して明日転入。アドバイス求む』
最初だし、テキトーでいいだろ。
さて、じゃあテーブルの前に座って、配信開始、と。
「あ、あー、聞こえますかー」
声を出して数秒後。視界端の配信画面に映る俺が喋ったように見えた。
配信の音声が出てるか、これじゃわからないな。
<聞こえてますよ
コメント!? よく見れば、画面に1人が視聴中って出てる!
「あ、えっと……幼馴染大好きさん、コメントありがとうございます! 音量とか大丈夫ですかね!?」
<はい。環境音もバッチリです。これ、なんの配信ですか?
うわー! 視聴者を感じると急に緊張してきた!
「えっと、明日、ラブコメ世界の高校に転校するので、アドバイスをもらう配信です!」
って、こんな適当な説明で大丈夫か? もっと詳しく経緯を……。
<そうなんですね! 転校ってことは、昔住んでた町に帰ってきたパターンですね!?
あれ、何の疑問もないの?
まるで数多くのラブコメ配信者を見てきたみたいに、俺の言うことを鵜呑みしている。
ってああ、これが女神様の言ってた、違和感を感じないようにしておく、ってことか。
<一時遊んだ男の子は!?
<過去に交わした約束は!?
<二つで一つになるアクセサリーの片割れは!?
幼馴染み大好きさんのコメントが早いし、ラブコメの知識なんだろうけど、俺に知識がないから全くわからない。
とりあえず、明日何すればいいか聞こう。
「すいません、そういうの疎くて。ラブコメするのに、具体的にどうすればいいか、教えてもらえますか?」
<わかりました! まずはですね、転校の挨拶で帰ってきた感を出すんです!
「帰ってきた感ですか。ふむふむ」
<それでですね、ちらとアクセサリーの片割れを見せるんですよ!
「ほう。それで?」
<あとはヒロインから接触してくるはずです!
「それだけでいいんですか?」
<はい! 向こうに話あわせてたら、勝手に惚れてくれますよ!
えっ、何。ラブコメちょろ。現実だとそんなことすると、何だあいつ、で終わりだけど、それだけでいいんだ。
これは聞いて得をしたな。明日の配信、ちゃんと絵が撮れそうだ。
「教えくださってありがとうございます! それだけでヒロインに惚れてもらえるんですね!」
<というか多分、惚れてますよ!
「本当ですか!? とりあえず、それっぽいアクセサリーをリサイクルショップで買ってきます! 縁もゆかりもない地で、店探しも一苦労なので、配信切って早速行ってきます!」
<え……w
「ご視聴ありがとうございました! 明日8時50分くらいに放送するので、チャンネル登録よろしく!」
そう言って、俺は配信終了と念じた。
ふぅ。じゃあ早速、それっぽいアクセサリーを買いに行こう!
———その日の夜。
『縁もゆかりもない街に越してきたのに、幼馴染みがいる風なやつを生み出してしまったかもしれない』
幼馴染み大好きの動画リンク付きトゥイートは、203リトゥイートされた。
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