神の御力1

『敵機接近! ジャストウォーが二十機だよ!』


 エイプリーが警告を発する。空中で加速するジャック達を止めるためにラナリーザ連邦軍のガランドウ、ジャストウォー正しき戦いが群がった。


 ラナリーザ連邦軍の主力機に位置するジャストウォーは、ガランドウとして平均的な二十メートルの全高、単純な角ばった装甲と癖のない操縦系統、そして各種追加装備を装着できる拡張性、のっぺりとしたバイザー型の顔を持つガランドウだ。


 そのためよく言えば量産性に優れ扱いやすい兵器としての模範生。悪く言えば外見も性能も特徴のない量産機である。


「張りぼてが!」

「死ね! ブラックジョーク!」

「マルガのクソ野郎め!」


 機体内で叫ぶパイロットも同じだ。国力で優位に立つラナリーザ連邦は、未だ正規のパイロットを育成し続けており、ある程度画一的な能力を維持し続けていた。


 ただし、軍の上層部は能力を維持できていなかった。ジャックの戦果に恐れ戦いた高級将校達は、それを素直に発表して戦意が低下しては危険だと考え、彼をプロバガンダで作り上げられた張りぼての英雄だと宣伝していた。そのため、ジャックの力量に関して末端のパイロット達は正しい場を持っていなかった。


 そもそも、ラナリーザ連邦軍の上層部が能力を維持できていないのは、ジャックが片っ端から戦場で殺していたからだが。


 とにかく、少々貶した表現になったが、模範的な兵器と画一的なパイロットは軍において至高であり、運用で面倒なオンリーワンなどお呼びでないのだ。


 本来なら。


「私らの邪魔すんな!」


 言動が若干粗野なヘレナの声ではない。


 普段の自由奔放ではなく、肉食獣のような獰猛さを表したキャロルが愛機の胸部内で猛る炎を稼働させた。


 部隊内で最長射程距離を誇るキャロルのサプライズの役割は、長射程を生かした狙撃だけではなく、圧倒的な弾幕による雑魚の殲滅も含まれている。


「死ね!」


 サプライズの複眼のようなカメラアイがジャストウォーを捉えると、キャロルは乱暴な言葉と共に火器制御装置のトリガーを握りこんでその火を解き放ち、両肩のキャノン砲、腕のガトリング、狙撃砲を発射した。


「なん!?」


 なんだと言いかけたジャスティスウォーの新米パイロット達が融解した。


 ジャストウォーに火が着弾した瞬間、ガランドウの火器ならある程度耐えられるように設計されている装甲は、溶けた飴のようにドロドロになって地面に落下していく。


 初見殺しにもほどがあった。


 長射程の攻撃は機銃ではなくビームかミサイルであると相場が決まっているし、ガランドウのシステムもいち早く警告を発してくれる。


 しかし、科学を否定するかのような神器から発生した火は完全に不自然なものであり、ジャストウォーのシステムは火の温度すら認識できなかったのだ。そのせいでなんの警告音も鳴らず、パイロットたちはモニターで火を目視できるようになってようやく何かが自分達に近づいてくると気が付いた。


 しかし大抵の場合、人間は訓練の刷り込みにはない常識外のことが起こると一瞬だけ思考が停止する。つまりシステムが警告音も自動緊急回避も起こさなかったため、パイロットは今現在特に問題ないと錯覚してしまった。


 結果、一発着弾しただけで装甲を溶かす火の嵐に、今日初陣の新兵などはもろに突っ込んで蒸発した。尤もジャックは初見で一発一発の火を認識して回避したが、そうそうできる技ではない。


「高速モード」


 最近は優し気、もしくはおどおどしてた筈のミラが無表情で呟きながら、愛機の中で揺れるあまりにも不可思議な小瓶の力を使い、部隊と足並みを揃えていた巡航速度から最大速度に移行した。


「速すぎるぞ!?」

「なんだあの機体は!?」


 ジャック達を仕留めるべく周辺から次々に集うジャストウォーの部隊だが、有利な位置を取るため彼らの倍どころではない速度で上昇し始めたメンテナースに驚愕する。


「FJ-21だと!?」

「あれもブラックジョークなのか!?」


 その速度は惑星シラマース最速を誇るブラックジョークに比肩するものであり、ジャストウォーの照合機能はメンテナースの速度を計測した結果、形状は全く違えどブラックジョークの類型機だと誤認した。


「死んでください。攻撃モード。射撃開始」


 ミラはどろりと淀んだ目で敵機を捕捉すると、火力を上げるという訳の分からない神器の力を使いながら、メンテナースが両手に携えたビームガンを発射した。


 するとビームは、常に敵機に対して向けるようプログラムされているジャストウォーの盾に直撃した。通常なら特殊なコーティングがされている盾は、大出力とは言えないビームガンのビーム程度なら防ぐはずだ。通常なら。


「ぎゃ!?」


 しかし攻撃力が上昇しているメンテナースのビームガンは盾を貫通して、ジャストウォーを不出来な飴細工のように溶かしてしまい、中にいたパイロットは爆散した。


「か、回避!」


「な、なんで単なるビームガンが特殊シールドを!?」


 《敵機急接近!》


「あ!?」


 その威力に慌てたジャストウォーのパイロットはサプライズの炎の嵐と、メンテナースの不可解な威力の攻撃をなんとか回避しようとしたが、機体が発した警告音の意味を理解したと同時に、コックピットを手刀で貫かれて押し潰れた。


「……」


 淡々と作業のように残酷な死を押し付けたヴァレリーが、デュエルトの腕をジャストウォーから引き抜いて次の獲物に突進した。


「どうしてだ!?」


 ジャストウォーのパイロットにしてみれば疑問だらけで叫んでしまうが、その疑問の一つはサプライズによる炎の嵐を気にせずに飛び回るデュエルトの姿だろう。


(識別機能のお陰で誤射が起こらないのか!?)


 それをパイロットは、誤射を防止する機能が優れているからデュエルトが突っ込んでいるのだと常識的に判断した。


「は!?」


 その考えはデュエルトがジャストウォーの発射したビームの直撃を受けてなんの影響もないことで霧散し、そして先ほどの仲間と同じように肉体が潰れたことによって消滅した。


「直撃したはずだ!?」


 はっきりとデュエルトにビームが直撃したことを見た別のパイロットが驚愕の叫びをあげる。


 その驚愕も当然、デュエルトは装備しているガントレットの神器によって一切の遠距離攻撃が通用せず、炎の嵐を気にしていないのも、直撃しようが神器による炎すら無効化してしまうからだ。


 詳細を知っているジャックですらその理不尽さに叫んだのだから、戦場で初見対応する羽目になったジャストウォーのパイロット達は悲惨極まる。


 だが。


「行くぞ!」


 アリシアが気合を入れる。


「ぶっ飛べ!」


 ヘレナが叫ぶ。


「はあ」


 ケイティが呟く。


 そんな機体がまだ三機もいた。

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