バイト先でネームプレートが(笑)になった件について

才式レイ

本編

 今まで様々なバイトをしてきた私だけど、あの飲食店のバイトは今でも忘れられないほど、超面白かった。

 当時、バイト先に佐藤さとうみどりという子がいてさ。私の名前は佐藤笑理さとうえみりだから、苗字が被っちゃって。そして、そのバイトは名札を付けるのが必須なところでして。


 最初、マネージャーは一日ずっと「ネームプレート、どうしようかー」とぼやいてたのがもうマジでうるさくて。そこで、別のバイトの男がある提案をした。


「だったら、二人の名前から覚えやすいところをピックアップしたらいいじゃないっすか?」


 その一言を基に、私たちのネームプレートはこうなったとさ。


『佐藤(M)』『佐藤(笑)』


 当時、マネージャーは「うん! 非常に分かりやすくてイイネ!」と大絶賛。しかも、私達の顔を見ながら。

 例の発案者は「ごめん。まさかこうなるとは」と笑いを堪えながら言い訳したのがよく覚えている。


 いやうん。非常に分かりやすいのはいいとして……。

 『佐藤(笑)』って、なんやねん! まるで私の存在自体が(笑)みたいじゃない! 

 あと、向こうも勝手にM認定されて可哀想じゃないか! これを付けて接客してみ? 

 お客さんも『え、なにこの子。自分がMですぅ~とアピールして悦んでんの? うわ、変態かよ』と思うこともあるかもしれないじゃん!


 まあ勿論、最初は不満たらたら。

 だけど働いている内に段々お客さん達の冷たい視線やクスクス笑いに慣れていって、気にしなくなった。


 ――と、ここで終わっていればいい話で終われたのだが。

 残念ながら三ヶ月後に新しいバイトの子が入ってきたんだ。しかも苗字も同じ佐藤で、名前が恵素えすと来た。

 そして、私達三人がホールで一緒に並ぶと、こんな感じになる。


『佐藤(S)』『佐藤(M)』『佐藤(笑)』


 「SM(笑)が揃ってる!」、と常連さんによく笑われる羽目になったのは、まあ必然的とは言えるだろう……。

 なんでやねん!

 ウチは飲食店なのに、ソッチ系のお店じゃないねん!

 あとなんだここは。全国から佐藤しか集まらないホットスポットか! 普通に嫌だわ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バイト先でネームプレートが(笑)になった件について 才式レイ @Saishiki_rei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ