【最終回】妹のお願い

 自室で昼寝中の理沙に突撃したことで、彼女を怒らせた俺。

せめてもの罪滅ぼしとして『なんでもやる券』を1枚渡すことにした。


ノリは肩たたき券と変わらないけどな…。

理沙は俺に何をやらせようとするのか? 気になるところだ。



 翌日。今日は月曜日なので、理沙が帰ってきたのを確認後、30分ぐらい時間を置いてから突撃する。


帰宅早々突撃したら、着替え中の彼女と遭遇するかもしれない。

そうなったら、2度と話せない気がする。…今の理沙ならマジであり得るぞ。


…彼女はベッドに寝っ転がりながら携帯をいじっている。いつも通りだな。


「どうかした訳?」

理沙は俺をチラ見後、すぐ携帯を見始める。


「おいおい、忘れたのかよ。『なんでもやる券』を渡すって言ったろ」

手に持っている券をヒラヒラ動かしてみる。


「あれ、マジだったんだ。一応兄さんにやってほしいことは考えたけど…」


「それは、俺に渡す時に言ってくれ」

起き上がった理沙に、なんでもやる券を手渡しする。


「わかった…。じゃあ、兄さんにやってもらうよ」

彼女は持っている券を胸の前でキープする。


何故か沈黙が続く。考えた割に、すぐ言わないのは何でだ?


「私が兄さんにやってもらうのは…」


「ああ…」


と、心の中で祈る。

償う立場の俺が、あれこれ言う資格はないがな…。


「『毎朝、私を起こすこと』だよ。明日からちゃんとやってよね!」


「…え?」


毎朝起こす…? それってつまり、毎日この部屋に入ることになるな。

そうなれば、今以上に話す機会は増えるが…。


「本当にそれで良いのか?」


「何でそんなこと訊く訳?」

彼女は不思議そうな顔をする。


「昼寝している理沙を起こしたから、こうなったんだぜ。まったく別のことをやらせるって思うだろ」


「私が怒ったのは、勝手に部屋に入ったことだよ。起こすために入るなら、何も言わないからさ」


そういうものか…? 根拠はないが、信じるしかなさそうだ。


「それに兄さんは受験生だし、早起きする習慣を身につけたほうが良いでしょ。受験当日に寝坊したら、全てがパーなんだから」


理沙の言う通りだ。1歳下なのに、よく考えているな…。


「そこまで俺のことを想ってくれるなんて…。お兄ちゃんは嬉しいぞ、理沙!」


「勘違いしないでよ。兄さんの件はおまけ。私が寝坊しないよう、予防線を張っただけなんだから!」


素直じゃないな。とはいえ、そこを指摘すると拗ねるだろうし黙っておこう。



 こうして、翌日から理沙を起こすようになった俺。

あの時の昼寝は偶然だったのか知らんが、彼女の寝相はかなり悪い…。


服がめくれたりズボンが脱げかけたりして、下着が見えるシーンが多いこと多いこと。朝から刺激的なので、俺の眠気は吹っ飛ぶぜ!


初期は『観るなーー!!』と怒っていた理沙だが、その内何も言わなくなった。

毎日観られているので、恥ずかしい感覚が消えたかもしれない…。


恥ずかしいところを観られた影響か、理沙の態度は軟化し以前とは比べ物にならないレベルで俺に話しかけてくる。プライドというか、壁がなくなったのかな?


彼女との仲が良好になったことで、俺の心配事はなくなった。

これで受験勉強に専念できるぞ!



 時は流れ、合格発表の日。結果はWEBでわかるみたいなので、急いで帰宅している。気になって仕方ないからな。


だが、家に着いてすぐ確認できる状況になったら、不安感が俺を襲う。

もしダメだったらどうする…? 1人で確認するのは怖いぞ。


母さんが帰ってくるまで、リビングで待つとしよう…。


なんて考えたところ、玄関の扉が勢いよく開いた音がする。

その後、大きい足音がリビングに向かってくる。


「兄さん。結果はどうだった…?」

理沙が息を切らしながら、やってきたのだ。


「お前、どうしたんだ? 走って帰ってきたのか?」


「兄さんの結果を知りたくて、すぐ帰ってきたの。それで、結果は…?」


「まだ確認してない。観るのが怖いんだ…」


「だったら、私と一緒に確認しよ。…ね?」


「そうだな。理沙と一緒なら…」


俺は携帯を取り出し、受験校のトップページを確認する。

すると『合格者一覧』と書かれた項目を見つけたので、タップする。


受験番号が大量に書かれているな。ここから、俺の受験番号を見つけるのか…。

理沙に番号を伝えた後、2人で頑張って探す。


「……あ! 兄さん、あったよ!」

そう言って、理沙は該当番号を指差す。


「…本当だ! 俺、合格できたんだ!」

肩の荷が下りたぞ…。これで一安心だ。


「兄さん、おめでとう!」

彼女は笑顔で俺に抱き着いてくる。


自分の事のように喜んでくれるとは…。俺にはもったいない妹だぜ!



 関係が冷え込んでも、諦めずに突撃したから今がある。

理沙との仲があの時のままだったら、俺はどうなっていただろうか?


…そんな事を考えても、気が滅入るだけで意味はないだろう。


来年は理沙が受験生になる。彼女が俺の心の支えになってくれたように、俺もできるだけのサポートをするつもりだ!



 ……ちなみに、毎朝起こす件は未だに続いている。

俺が起こさなくても、理沙は1人で難なく起きられるんだが…。


「朝起きた時に兄さんの顔を観ると『今日1日頑張ろう』って思えるの」


なんて言うから、続行している。可愛い妹のためだ。

これからも、起こし続けてあげよう。

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妹の部屋に突撃し続けたら、段々デレてきた件 あかせ @red_blanc

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