別れ話

どくいも

言い訳していいわけ?


「私達、もう終わりにしましょう」


それはとある休日の午後。

ちょっとおしゃれなカフェにて、一組の男女の間で起きた騒動の話だ。


「……え、えっと、それは……ど、どう云う意味で?」


「どういう意味も何もないわよ。

 そのまんまの意味で、私達の恋人関係、そろそろ終わりにしないかって話よ」


それは別れ話。

とあるカップルにて、女が男に別れ話を切り出したのであった。


「な、何か僕悪いことした!?

 えっと、その、何か理由は……」


「理由ならたくさんあると思うけど?」


「うっ!」


どうやら男のほうは未だ未練があるようだが、女のほうはそうではなく。

その男について、別れ話まで至った問題点を列挙する。


「そもそもこの間のデートに遅れたとか。

 メールとかラインの返信が、ものすっっごく遅いこととか」


まずは軽いジャブから。


「そもそもあなたから誘われたデートの約束をすっぽかされたり、

 誕生日デートとかも全部忘れていたり、

 デートに財布どころか携帯すら持ってこなかったり」


次のストレートめのを入れ。


「あなたが別の知らない女性とデートしていたとか、

 貴方の自称知り合いに誘拐されかけるとか、

 そもそも一回あなたの浮気相手から、あなたとのキス写真とかまで送られてきてるんだけど?

 何かもう、普通に別れないほうがおかしくない?」


「違うのだ!!

 でも、ごめんなさい!!!!」


彼は思いっきり、頭を下げつつ机に頭を擦り付ける。

しかし、彼女もすでにそんな彼のしぐさに、慣れ切っているため、動揺もせずに言葉を続ける。


「……別に謝ってほしいんじゃないの。

 というか、いつも頭を下げるのはいいけど、それで特に大きく反省したりとかはしないよね?」


「反省はしてる……してるんだけど……」


「それで、特に改善はされていないものね。

 まぁ、もう別れるからどうでもいいけど」


「まって!!!!!!!」


焦る彼に、溜息を吐く彼女。


「でも俺、別に浮気しているわけでも……。

 その……ちょっと人助けとか、個人的な急用とかで……」


「はいはい、そうですね。

 人助けという名の新しい女の子とデートですね、わかります」


「違うんだよ……」


彼女の口撃に、へこむ彼。

そんなしなしなになっている姿の彼を見ながら、彼女は口に出す。


「私だって、本当は別れたくないけど……

 さすがにもう限界なのよ」


「……」


「いくら鈍い私でも、毎期毎回こんなことをされると、流石に気が付くわよ。

 だからもう……お互いのために終わりにしましょう?」


「……」


無言になる彼に、彼女は静かに思う。

そうだ、彼女だって気が付いているのだ。

大事なデートのたびにいなくなる彼。

彼に取り巻く女性の多さ。

そして、間が悪すぎるし、不自然な隠し事の多さ。

そうだ、それは彼が彼女にしている秘密が……。



「……だから言うけど、さすがに、私に正義の味方の彼女は重すぎるって。

 だからちょっともう、別れましょう?マジで」


「にゃにゃにゃ、にゃんの事だか、全然わかんないな!!!!

 でも、なんで今ここで突然そんな話が出るのかわかんないなぁ!!!」


―――そう、なんと彼はこの街を守るスーパー変身ヒーローだったのです!


「いやさ、流石に毎回毎回、いなくなるタイミングと怪人出現時間がかぶってると否応にもわかるか。

 というか、嘘つくのが下手過ぎるでしょ」


「ぜぜぜ、全然わかんないけど、件のヒーロー、確かアイセイガーさんはいい人らしいけど、僕とは無関係の只のヒーローだよ?

 ぜぜぜ、全然この別れ話とは関係ないでしょ」


「そうだね、べつに正体を知られたらその人の記憶から消して、本人もその人の前から去らないといけないんだっけ?

 いやまぁ、だから確信しているとは言わないよ、言わないから安心して」


「……っほ」


いやもうそこで安堵のため息を出している時点で、ほぼほぼ正体をばらしているようなものだが、それをコイツは気が付いているのだろうか?

余りの彼の素朴さに、彼女はほんの少しの愛おしさと、互いな呆れを感じてしまう。


「まぁ、私自身あなたとの思い出が消されるのは悲しいからそこまではしなくていいよ。

 でももう流石に、いろんな意味でお互い距離を置く時期だとは思わない?」


「お゛も゛わな゛い゛!!」


「別に分かれてもお互い、一生の別れでもないでしょう?

 それにお互い離れてから気付くものがあるって、お互いの愛があるなら別れても大丈夫とか。

 それにまぁ、貴女も本業に集中できた方がいいでしょ?」


「本業は君の恋人です!」


「あら、うれしいこと言ってくれてありがとう♪

 それじゃぁ、この村の安全と私どっちが大事?」


「どっちも守るのがヒーロー……ごほん、彼氏の役割だ!」


「100点満点の回答ありがとう♪

 でも、残念ながらその彼女との約束も心も守れてないわよ」


「……」


「無言で泣かないでよ」


彼女はこのままではいけないと、考え直す。

そうだ、最近はいつもこうだ。

口でいくら言っても、聞きはしないし、何となく言い訳をされて、また今度という結末になってしまう。

だから、ここは一発強気に別れ話を切り出して……


「わー!!!怪人が出たぞ~~!!」

「キャー!!!」


おまぇえええ!!このタイミングでぇええ!!!


「あ!ごめん、おれちょっと急にお腹が痛くなってトイレに行ってくる……」


「今席を離れたら、とりあえず、別れるってみなすけどいい?」


「えええぇぇぇ!!」


ええぇい!ここ最近はずっとこんな騒動で別れ話をごまかされていうのだ!

ここは多少強引でも、完全に分かれるように話をもって言って……ってあれ?

なんだか急に眠たくなって……。


「すやっやっや!我は睡眠怪人ムマーン様だぞぉ!

 みんなすやすや眠ってしまぇええええ!!!」


「っく!ナイス!じゃなくて、なんて卑劣な怪人だ!

 このままじゃ別れ話がいい感じにうやむやになってしまう!!」


(ちょ!おま、てめぇえええ!!!!)


もっともこの怪人の登場により、ただの一般人に過ぎぬ彼女は夢の中に。

彼女の眼に最後に移ったのは、どこからかベルトを取り出し、ヒーローへと変身する彼の姿であった。





「うう……ごめんねぇ、せっかく私から持ち掛けたデートなのに途中で寝ちゃって……」


「いやいや全然!全く問題ないよ!

 僕だって最近似たようなこと多かったし!」


「そう言ってもらえるとありがたいけど……。

 でもたしか、眠る前に何か大事な話をしていた気がするんだけど覚えている?」


「う~~ん、別に特に変わったことはなかったと思うよ?

 いつも通りのかわいい顔だったし」


「も~~!!」


なお、なぜかこの騒動の後しばらくは彼女たちの関係が修復。

もっとも、それでも根本の問題は解決していないため、また数週間後には似たような事件が発生するのだが……またそれは別のお話である。

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別れ話 どくいも @dokuimo

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