言い訳しに古里に帰る

@aqualord

言い訳しに古里に帰る

「どう言い訳しよう。」


彰はスマホから聞こえるだみ声を聞き流しながら思った。


一昨日、彰が帰宅するとポストにチラシが入っていた。

いつもならそのままゴミ箱直行なのだが、気分に余裕があった彰はつい目を通した。


不要品を引き取るというチラシに、一時期押し買いの被害が騒がれていたことを思い出した彰は、そのまま丸めてゴミ箱に投げ入れたのだが、不要品の整理をしてみては、と言われたような気もして、昨日、部屋の整理をした。


すると、見覚えのない小箱から見覚えのないアクセサリーが出てきた。

一人暮らしで、就職を機に引っ越してきてから彼女がいたこともないから、実家からの荷物に母親のものが紛れていたのかも知れない、そう考えた彰は久しぶりに実家に電話をかけた。


ところが電話口に出てきた母親は、話を聞くなり怒り出した。

前から探していた、彰にも尋ねたのに、と言う。

言われてみると、母に頼まれてさっと、あくまでもさっと探した記憶が彰にはあった。


「その時は見つからなかったんだよ。」


彰はそう言い訳してみたものの、母親はきちんと探していないからだ、顔見せついでに実家に届けろ、と無理難題をいう。

「明後日、同窓会で着けたいから宅配便はダメよ。」

とも言う。

もちろん仕事のある彰は一旦は断ったが、彰が見つけたものは、母親が高校卒業の時に仲良し3人組でお揃いで買ったもので、同窓会には着けてくるという約束をした大事なものだからわざわざ彰にも探すように言っていたのに、とさらに怒り出してしまった。


こうなると母親は頑として譲らないのを彰は知っていたし、自身の言い訳に説得力がないのも自覚していたから、仕方なく休みを取って今日の里帰りとなったのだ。


スマホからまだ聞こえてくる駅まで迎えに来た父親の声を聴きながら、彰は、久しぶりの故郷の臭いを胸一杯に吸い込んだ。

すると、言い訳なんてどうでもいい気になった。





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