いいわけができる大人になれ

超時空伝説研究所

ばあちゃんの口癖

 うちの田舎には古くからのしきたりがある。


 いや、別に怖い話ではないよ。現代日本の話だからね。まあ、ちょっと前の話ではあるが。

 わたしが子供の頃のことでね。


 え? それならだいぶ昔だって?


 そうか。きみらから見たらそうかも知らんね。

 今はどうなっているか……。


 うん。うちのばあちゃんの口癖でね。ばあちゃん子だったから、しょっちゅう言われてたんだ。


「✖✖✖、おめェはいいわけができる大人になれ」ってね。


 えっ? 変な教えだって?


 そう聞こえるだろうね。言葉にしちゃうと紛らわしいのさ。

 わたしも東京に出てきた時は随分戸惑ったもんだ。


 何が違うのかって? ああ、「いいわけ」だよ「いいわけ」。

 普通はさ、「言い訳」って書くだろう? 「言い逃れ」ってことだよね? 責任を逃れるための理由。


 うちの田舎で言う「いいわけ」ってのは、そうじゃないんだ。昔からある風習なんだよ。


 字で書くと、「飯分」。「飯を分ける」と書くんだ。


 昔はどの家も貧しかっただろう? 米が無くなるなんてことがよくあったらしいよ。

 はは、わたしの子供の頃もあったんだけどね。


 うちは親父が早くに死んだんで稼ぎが少なかったんだ。


 そうしたらね。おふくろが木綿の袋を持って近所を回るのさ。


「いいわけさおねげェします」


 そう言って頭を下げて回るの。


 わたしはまだ小さくて、何もわからなかった。ただ、おふくろに手を引かれて歩いて回ったよ。

 おふくろはあかぎれでひび割れた手を合わせて、お辞儀をしていた。


 黄色く色が変わって、小さく欠けてしまったくず米を分けてもらってね。

 村中回っても木綿の袋は角しか膨らまなかった。


 情が薄いんじゃないんだ。みんなが貧しくてね。


 家に帰ったら、野菜の端っこと一緒に雑炊にしてくれた。

 それを啜りながら、ばあちゃんが言ったもんさ。


「おめェはいいわけができる大人になれ」ってね。


 あの時の雑炊が今まで食べた物の中で、一番うまかったよ。

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