化け物抹殺企画
マスケッター
弁明
若手ながら、藤木は敏腕営業男子だ。その日は帰宅して、休日の準備にいそしんでいた。春になり、屋外にでやすくなっている。
寝室のパソコンで情報収集をしていて、背後からぽんと肩を叩かれた。振りむくとゾンビがいた。その背後には狼人間と吸血鬼もいる。
悲鳴をあげ、どうにかスマホをだした彼は百十番を試みた。手が震えてスマホを落としてしまった。ゾンビが黙って拾い、藤木に渡した。礼もいわずにひったくったが、圏外だ。
ゾンビは藤木の無作法をとがめるでもなく、ベッドの脇に退いた。ベッドの上には、藤木のリュックがあった。パソコンが終わったら、中身を確かめるつもりでだしてあったものだ。
「あのっ、リュックに腐汁を落とさないでください」
我ながらバカバカしい注意だった。ゾンビは無視している。狼人間がゾンビの隣にきて、これまた無言のままリュックを漁った。
「勝手に開けるなよ!」
これまでの恐怖も手伝い、藤木は本気で怒鳴った。しかし、狼人間がリュックからゾンビのマスクをだした。藤木は打ちのめされて椅子ごと机に密着した。
ついで、吸血鬼は一言もいわないまま自らのマントの内側からタブレットをだした。スイッチはついている。
「今晩は。『化け物抹殺クスクス企画』の雑魚ゾンビことジッキーです! 今回は、狼人間がいるっていう噂の廃屋が舞台です!」
ゾンビマスクをかぶった藤木が、自ら撮影した動画の中で面白おかしくポーズをとってから深夜の廃屋を探索していく。玄関から地下室まで、全て何事もなかった。
「ね、いるわけないっしょこんな化け物。頭悪いんじゃね? プークスクスっ。お疲れ様ー!」
吸血鬼はタブレットのスイッチを切った。
「あ、あんたらまさか本物か!? だって、まさかいるわけないじゃん。漫画やゲームじゃあるまいし」
いいわけを重ねる藤木に、吸血鬼達がじりじり迫った。
次の日以降、藤木の姿を見た物語はいない。
化け物抹殺企画 マスケッター @Oddjoh
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