ラスボス攻略のキーアイテムを忘れてきたので誤魔化したい

Shiromfly

最終話「忘れ物には気を付けよう」

 最後の敵である『虚無天使ダスエル』との最終決戦が今にも始まらんとしているとき、俺は、ダスエルの真の姿を暴いて弱体化するためのキーアイテム【女神の霊涙れいるい】を持ってくるのを忘れてきたことに気付いた。


『愚かな人間どもよ、お前たちはあまりにも長く争い過ぎた。今こそお前達を滅ぼし、私は争いの無い、新たな世界を作り上げる――』

「そんなことはさせない!」

「人間はそのぶん、愛し合うこともできるのよ!」


 三名の仲間たちは皆、ダスエルの大仰な口上にやいのやいの言い返すのに夢中で、後列の俺が青褪めながら鞄をひっくり返してることに気付いていない。


 あかん。ないわ。


 あー多分宿屋だ。最後に泊まった宿だわ。出発前夜に一応全部取り出して整理したのが逆にまずかったわ。

 勿論、女神の霊涙はこの戦いで最も重要なもの。だから一旦机の上に、別にして置いた……までは覚えている。


――――――――――


 最初は俺も仲間と同じように、人類の命運を賭けた戦いを前にして、それなりに緊張してた。しかし、鞄に何気なく手を突っ込んで探ったら、女神の霊涙を入れていた小瓶が、ねえでやんの。


 段々と血の気が引く。ダスエルの話を聞くどころじゃない。


 スキルで内容量を拡張した鞄からは、仲間たちの所持品がボロボロ出て来る。女魔導師が街の本屋を見つける度にどっさりと買い込む魔導書スクロールの束。リーダーの女剣士の、単なる趣味で集めているぬいぐるみの山。実績でも解除すんの?もうぐちゃぐちゃだよ。


 ここは落ち着け、俺。昨夜の出来事を一つ一つ思い出そう。

 どっかに紛れ込んでる可能性はまだある。


 仲間たちは俺がアイテム整理をしている時間、深夜の散歩に出かけていた。決戦前夜の思い出作りイベントですか?俺を置いて出てって三人でナニしてたか言ってみろお前ら。まあそれはいい。いややっぱりなんかムカついてきた。


 大体さあ、お前等が何でもかんでも俺に全部アイテムを持たせるからこうなるんだよ。俺だって戦闘スキル伸ばしたかったよ!かっこ良くて燃費の良い技を覚えて強力なコンボ決めまくりたかったよ!けどお前らはあ!インベントリ拡張に全振りさせて食糧だのなんだの、あるもんをあるだけ押し付けてきやがって。俺の筋肉はアイテムでパンパンの鞄をどっさり持つ為に鍛えたんじゃねえの!!


 一縷の望みは、七つ目の鞄。しれっと見つけるという幸運ラッキーに賭け……うん無い。


 俺はもう半泣きだ。

 どうしよう、取りに帰ってもいい?


『―—私は一万年も待った。お前達人間はいずれ変わると、昔は信じていた……』

 そんだけ待ったなら、あと一時間くらい待ってくれてもいいですよね?


「そんなのは言い訳だ!それは、諦めを肯定するための言葉に過ぎない!」


 すっかり盛り上がってる仲間に何て言おう。うまい具合の言い訳で誤魔化せないかな。駄目?


 胃が痛い。

 


――――――――――― 


 俺達のパーティは美女で巨乳の女剣士を筆頭に、同じく美女の魔導士と、イケメンの弓使い、そして格闘家である俺の四人。


 女たちはどっちもイケメンの弓使いに熱を上げていて、イケメンアーチャーもまんざらでもない様子で満喫している。俺はと言えばむさくるしいおっさんモンク。三枚目担当。


 ダスエル攻略のキーアイテム【女神の霊涙れいるい】を手に入れるのも相当苦労した……つーか酷かった。あんの女神、言うにことかいて「汝らの真の愛を証明せよ」とかぬかしてさあ。んでどうなったかっつーと、女二人がイケメンアーチャーに告白して三人は幸せなキスを交わして、なーんてイベントが発生してさあ。


 そんで女神が泣いてんだよ。どーゆーこと?まあ、まあ、いいよもう。知ってたよ。当然俺は、魔法の小瓶でその涙を回収しに走り寄ったんだよ。したらさ、女神がちょっと引いてんの。いくらあんたが半裸で俺がキモい中年でも、何もしねえよ自意識過剰だよ。


 あーもう、仕方ないじゃん。その小瓶だって俺の小指くらいしかねえんだもん。何かの拍子に落としたり失くしたりもするって……―—。



『―—もう言葉など要らぬ!さあ、かかってこい人間どもよ!』


 もうダメだ。始まる。


「皆、準備は良い……!?」

 リーダーの女剣士が息巻いてるのが滑稽すぎて、なんかもう笑っちゃいそう。肝心の弱体キーアイテムが無いのに。

 

 良い訳ねーだろ。

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