魔法の国に、7の日は近づくな

とざきとおる

「7」が付く日は帝国にとって最低の侵略日和

 目指すは世界統一。


 世界にあまねく皇帝の帝国の教えを広めるべく、今日も帝国は兵士を鍛え、次なる侵略計画を立てている。


「悪を消す。悪となりえるものを消す。そうすれば善なるものしか残らない。帝国の力は、今の未来の悪を消すために存在する」


 それが帝国が力を求めた始まりだった。犯罪者を、人々に悪感情を与えた人間を、消し続ければ理想の世界が生まれると。


 帝国の教育も、政治も、経済もそのために回っていて、人々は幸福である。


 なぜなら、幸福だと思っている人間しかいないのだから。






「皇帝。なぜです? タートルリベリアは先日の攻撃で疲弊しています。今こそ、怒涛に責めるべきなのです」


「俺に意見をするつもりか」


「はい」


 各大臣は45日に1回、玉座の間に集まり、定例の会議を開いている。今日の話題として注目を集めたのは、新人の大臣の初参加だ。


 20代にして圧倒的な軍師の才能を見せた彼は、その才能を買われ、前の軍務大臣を相談役に置き新たな軍務大臣となった。


「……まあ、新人のお前の気持ちもわからなくない。やる気に満ち溢れているのはいいことだ。一度だけ、俺から説明してやろう」


「ありがたき幸せです」


「大臣は俺の味方である限り俺の同志となるもの。俺はその激務と責任に20代で挑もうという心意気を尊重している。だからこそ、無知も可愛いものだと思わねばな」


 皇帝は巻物を新軍務大臣に手渡す。


「これは?」


「侵略の歴史だ。すべて政は皇帝が書き記すことになっている。それは帝国のここ100年でのタートルリベリアとの闘いの歴史なんだ。恥ずかしながら、実にオカルトじみていて、帝国教育所の歴史教科書に載せられない事実があってな」


 知らないのも無理はないか、という財務大臣のつぶやきも聞こえ、新軍務大臣の若者は何かあると、巻物を見ていく。


 帝国歴1019年、三つ首犬の季7日、タートルリベリアで大きな地震があり大損害を受け撤退。


 帝国歴1146年、四英雄の季7日、タートルリベリアに侵攻途中、船にものすごい雷が降って大損害。撤退。


 帝国歴1174年、七祝福の季4日、タートルリベリアに上陸してすぐ全員が謎の発熱と発作を起こした。侵攻中止。


 帝国歴1177年、七祝福の季6日、タートルリベリアへ侵攻。今回は順調。⇒謎の少年の魔法により底なし沼にハマり動けなくなる。猛攻を受けて全滅。


 帝国歴1184年、七祝福の季18日、タートルリベリアへ侵攻。今回は順調⇒謎の変態が現れ、飛竜が大混乱を起こし侵略どころではなくなる。撤退。






「7の日が……7の日が……」


 これだけではない。7が付く日のとき、タートルリベリアへの侵略がうまくいっていない。


 海上の国である以上、向かうのにも10日以上はかかる厄介な国。どんな方法をとっても7日というのはやってくる。


「その通り。俺もとても信じられないが、あの厄介な魔法の国をわが物にしようとしても7日になるとなぜか敗北する。しかも単純な軍事力ではなく、まるでこっちに不利に働く変なアクシデントばかりだ」


「えぇ……」


「困惑するだろう。アンラッキー7。俺にとって7とはそんな恐ろしい数字なんだよ」


 皇帝は軍務大臣の肩に手を乗せる。


「だが帝国は諦めてはいけない。もちろん7の日を避けるべく9日以内での侵略手段の研究も進めながら、このようなオカルトに我々が負けてはいけない。すぐに次の手段を考えよう。それが君の仕事だ」


「はい……」


 なるほど、帝国が世界を統一するときに、7の日はダメだったという汚点を残さない努力も必要だ。そう軍務大臣は解釈した。


 正直、今の話を聞き、軍務大臣は困惑と情熱の発露があった。


 困惑は、またむざむざ侵略に行かせて、7の日に兵士にひどい目に遭わせていいのかと。


 そして情熱は。自分の軍師としての采配によって、その状況を変えられたら、それは軍師としてこの上ない喜びだということ。


 謎の天災との闘いに、決意を新たにする大臣を見て。


「ははは、やはり君を選んで正解だった。我が国に悪感情は要らない。この災いを聞いて泣き言を言わずに、後ろ向きにならずに、災いに勝とうとする君こそ、この国の鑑にふさわしい。他大臣も彼を支えてやってくれ」


 威勢の良い返事が、玉座の間の響きわたる。

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