昌士セブン

ろくろわ

7Days

 昌士まさし佳子よしこは幼稚園から二十数年の付き合いになる。

 昌士が佳子の異変さいのうに最初に気が付いたのは幼稚園の時だった。

 おままごとで佳子がオモチャのコンロで炒めていたプラスチックのお肉が突如とつじょとして飛び散ったのだ。

 中学生の時の自然教室で作った飯盒炊飯はんごうすいはんは、蓋を開けるとお米がポップコーンみたいに弾けていった。

 高校生の時の調理実習ではチームの二人が同時に悟りを開いていた。



 ある晴れた日曜日

 そんな佳子から「くじで一等の黒毛和牛が当たったから明日ハンバーグを作ってあげる」と言われた。

 昌士は全力で「お前には無理だ」と止めたのだけど無駄だった。


 そして昌士のアンラッキーな七日間が始まった。


 月曜日は焼いた筈なのにどろどろのハンバーグ。

 火曜日は筋肉きんにく弁当。蓋を開けるとスジ肉がポージングをキメていた。しかも一度蓋をじ再び開けるとポーズが変わっている。

 水曜日はテールスープと言う名の何かが熔けたお湯。

 木曜日は凄く固いタンが鍋に刺さっているシチュー。

 金曜日は綺麗な備長炭。最早料理でも無いが、炭でお腹の中から綺麗ってやつ。

 土曜日はローストルームと言ういぶされた部屋を体で味わう新しい経験をした。

 佳子の料理はほんの一握りだったけど、食べるとすぅーと意識が遠退き涙が流れ、意識が戻る頃には次の日の朝になっていた。


 日曜日

 沢山あった黒毛和牛は土曜日の料理でようやく終わり跡形も無くなっていた。


「ついに佳子の料理が終わる」

 朝、目覚めた昌士は安堵し呟いた。


 月、火、水、木、金、土。

 長い六日間だった。

 しかし嬉しい筈なのに何かを忘れている。

 六日間?


 その時、昌士のスマホが鳴った。

 相手は佳子。昌士は胸騒ぎがしていた。


「もしもし」

「あっ昌士。今度は世界の七大珍味が当たったの!明日からまた作ってあげるね」


 昌士はこの後の事を覚えていない。


「何だよ、世界の七大珍味って」

 昌士は佳子に料理をやめさせる方法を考えていた。



 了


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昌士セブン ろくろわ @sakiyomiroku

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