第43話 巡る季節

 婚約したことは影響範囲が大きいからしばらく皆には黙っておけと課長に言われたので、会社の先輩方には黙っていた。実家にはゴールデンウィークに帰省することにして、その時に報告することに。会社でも特に婚約したことが話題になることもなく普通に過ごし、やがて毎年恒例の花見の季節に。去年の花見で、皆に詩織さんを紹介したんだっけ。あれから一年か……


「今年もお花見がありますよ。詩織さんは……」

「もちろん参加じゃ!」


 こういうの、大好きですもんね。と、言うことで去年同様、例のウチの会社管轄の神社へと向かう。


「指輪、してきたんですか?」

「良いではないか。自慢したいのじゃ」


 まあ、いつまでも秘密にしておけることでもないし、皆に周知するにはいいタイミングかな。神社の横の脇道を通って花見会場に行くと、もう既に皆集まってガヤガヤしていた。


「おう、遠藤! 待ってたぞ、先ずは社長の所にいけ」

「え!? あ、はい」


 最初に僕たちを見つけてくれた先輩神様にそう言われる。社長がおられる所には課長もいて、立ち上がって手招きしてくれていた。


「遅くなりました」

「いいの、いいの。さあ、主役はこっちよ」

「主役?」


 課長に押されて社長や部長たちの前へ。と、社長が立ち上がったのに合わせて全員立ち上がり、びっくりして振り返ると先輩たちもゾロゾロと立ち上がっている。


「な、何ですか!?」

「フォフォフォ、こんなにめでたいことを祝わないわけにはいかぬからね」


 社長が後ろ手を前に回すとクラッカーが握られていて、


「二人とも、おめでとう!」


と、掛け声を賭けると同時に皆が一斉にクラッカーを鳴らす。そして拍手が湧き上がった。


「あ、有り難うございます!」

「気を使わせてすまぬのう。しかしこんなにも祝福されるのは、私も嬉しいぞ」

「もちろん、僕もです!」


 課長の方を見るとウィンクしてくれる。きっと課長が色々と手を回して準備してくれたんですね! それから詩織さんはその場に残り、僕は先輩たちに引っ張られて皆の輪の中へ。


「さあ、遠藤くん! 洗いざらい吐いてもらいましょうか!」

「この野郎、みんなの詩織様を独り占めしやがって! しかし、良く思い切ったな」


 手荒いながらも祝福してくる先輩方に感謝しつつ、結局この一年間のことを色々喋らされてしまった。その後詩織さんもこちらにやってきて、女性の先輩方に囲まれる。婚約指輪や告白のことに関して女性の先輩方は興味津々で、結婚ブームにならないだろうな? と、ちょっと心配になるぐらい。アイドルと結婚した一般人の気持ちって、こんな感じなのかなあ。


 とても盛り上がったお花見宴会。最後には課長の提案で皆の前で挨拶しろと言われてしまったが、何とか乗り切る。詩織さんは流石に堂々としていて、僕の時と違って茶化す声もなく涙ぐんでる女性神様までいた。うん、やっぱりアイドルだ。


 今から振り返れば怒涛の一年間だった気がする。カクヨムコンの本審査結果はまだ少し先だけど、結果はともかくこの一年間で僕の人生は大きく変わったのは確か。詩織さんと言うとても大切なパートナーと結ばれたわけだけど、彼女が神様だと言うことは忘れずに、これからもずっと尊敬しつつ良い関係を保っていければと思う。そして、次のカクヨムコンもやっぱり挑戦しよう! 書くことは楽しいし文芸の神様である詩織さんを楽しませることができるなら、僕の恒久的な趣味にしたいところ。


「今年の花見は格別じゃったな。七緒め、粋なことをしてくれる」

「本当に。課長にはいくら感謝しても感謝しきれません。それと、カクヨムコンにも感謝かなあ。あれがなければそもそも詩織さんと知り合ったり、一緒に生活したりすることもなかったわけですし」

「そうじゃな。さながら、我々のキューピッドは七緒とカクヨムコンってところじゃ。おお! これは『カクヨム婚』ではないか! カクヨムコンだけに」


 あーあ、それ言っちゃいますか? 気が付いてましたがベタすぎると思って言わなかったのに。


「な、なんじゃ?」

「いや、詩織さんはイッパイ本を読まれますけど、ダジャレの本も読んだ方がいいと思いして」

「どう言う意味じゃ! 『カクヨム婚』、なかなかいいではないか!」

「はいはい」


 ちょっと顔を赤らめて必死になる詩織さん、カワイイ。でも、カクヨムコンに対する思い入れは僕も一緒です。次は第十回目で記念のコンテストになるでしょうし、もう迷うこともありません。詩織さんの言葉を借りるなら『もう祭りは始まっている』ですね。あなたが傍にいてくれれば、僕はまた10に向けて走り出せそうです。


 ありがとう、詩織さん。そして……愛してます。


FIN

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9に向かって走れ! たおたお @TaoTao_Marudora

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