第33話 打ち上げ

 今日から十一月。十月は色々あってあっと言う間だったなあ。特に後半は、今までの会社生活で一番仕事した気がする。流石に疲れていたので今日は部屋でゆっくりさせてもらって、夕方から支社の打ち上げに参加することに。打ち上げ場所は『裏道』でつながる場所で、人は入れない場所。

僕が例外的に入れるのは、日頃から詩織さんを始め会社の神様方と一緒にいるからかな?


「あの、知り合いの神様も一緒に参加してもらっても大丈夫ですか?」

「ん? ああ、もちろん。大歓迎だ。こちらに神様の知り合いがいるとか、流石遠藤くん」

「アハハ、有り難うございます」


 星野さんにオーケーをもらっているので、これで詩織さんも参加して大丈夫。


「もう一人、特別ゲストがおるぞ」

「特別ゲスト?」

「うむ。あちらにいく途中で合流じゃ」


 詩織さんの知り合い? 詩織さんは神様の間でもすごく有名みたいだし知り合いがいても全然おかしくないけど、どんな神様だろう……そう思って待ち合わせ場所に行ってみると、実家の神社の神様である龍神様(神崎様)だった。


「聖也もこちらに来ておったのだな」

「龍神様! ご無沙汰しております。こちらの支社にヘルプとしてきてたんです」

「それはご苦労だったな。多くの神々が押し寄せるから大変だったであろう……それよりも、私まで参加して良いのか?」

「知り合いの神様も大歓迎と部長さんがおっしゃってたので、大丈夫だと思います。是非ご一緒に」


 昨日仕事が終わって打ち上げのことを聞いてすぐ、詩織さんにメッセージを送ったんだよね。どうやら龍神様にも連絡してくれたらしい。龍神様はもちろん神々しいお方なんだけど、実家の雰囲気がして一緒にいるとすごく落ち着く。龍神様はいつもの袴姿だったけど、詩織さんは洋服。でも裏道を歩いている内に、初めて会った時の羽衣姿になっていた。


「今日はその服なんですか?」

「まあ、サービスじゃな。私の制服みたいなもんじゃ。神様っぽいじゃろう?」


 いや、神様なんですけどね。神在月の間『裏道』は神様で溢れていてとても賑やかだったけど、今は誰もいない。静かな道を歩いて目的の大きな建物に到着する。そこは旅館の様な雰囲気で、そこの大広間が打ち上げ会場になっているらしい。


「メイン会場じゃな」

「メイン会場?」

「神々が集まって色々話をする場所じゃよ。酒を酌み交わしながら、気ままに話すのじゃ。私も良く来ておったぞ」


 そういう会場が何箇所もあり、好きな場所に行って話すんだそう。話の内容も様々で、昔話をする神々もいれば、現在社会のことを話している神々もいるらしい。


「詩織様は他の神々から訪問されて、対応が大変だったでしょう」

「久しぶりじゃったからのう。お陰で楽しむことができたわ」


 龍神様の話では、詩織さんほどの格が高い神様が参加することは実は稀なんだとか。あー、星野さんが言ってた『大物』って、やっぱり詩織さんのことだったのか! そんな『大物』を打ち上げ会場に連れて行って大丈夫なんだろうか……と少し思ったけど、もう遅いか。


 建物に入って宴会場の立派なドアを少し開けて中を覗くと、ガヤガヤと既に盛り上がっている様子。だだっ広い洋間の所々に大きな円卓がいくつも置かれていて、料理や酒が並んでいた。どうやら立食形式の様だ。僕のイメージだと、だだっ広い和室に畳だったんだけど……こういう所も近代化が進んでいるのかな。キョロキョロしていると、星野部長がこっちに来てくれた。


「やあ、来たね遠藤くん。もう始まっているから、好きなテーブルに着いてくれ」

「有り難うございます。神様方も一緒で良いですよね?」

「ああ、そうだったね。遠慮なく入ってもらって」

「はい、じゃあ」


 僕の後ろにいた龍神様に入って頂くと、一瞬驚いた顔の星野部長。


「こ、これは神崎様! ご無沙汰しております」

「うむ、毎年のことながらご苦労だったな。お陰で私も楽しむことができた」

「滅相もない! すぐに支社長を呼んでまいりますので!」

「いや、今日は君たちの労いの場。気遣いは無用だ」


 と、龍神様と星野部長がドアの前で言葉を交わしていると、待ちきれなくなったのか詩織さんがぐいっと龍神様の体を押して中に入ってきた。


「こらこら、長話しをしたら入りにくいではないか」

「ハハハ、これは失敬」

「ひぃっ!」


 笑っている龍神様に対して、顔が引きつっている星野部長。あー、これは花見のときの再現かな? いや、この間実家近くの支社に行った時に近いか。本社の部長さんたちは『詩織くん』とか言ってたし。


「し、詩織様!」

「邪魔するぞ。今年は私が出席したことで余計に忙しかった様じゃから、私も諸君を労って帰ろうと思ってな」


 広い会場が一瞬で静かになり、皆の視線がこちらに集まっている。支社長はじめ偉い方々が飛んできて、二人はあっと言う間に会場の前の方に連れて行かれてしまった。会場にいた神様たちも前に集まり始めている。『詩織様と神崎様よ!』『キャーッ、なんで!? なんで!?』などなど、さながらライブ会場の様な……今までの経験から、こうなることは予想していたんだけど。


「ま、またとんでもない方々を連れてきたね、遠藤くん!」

「僕の実家は神社でして、そこの神様が龍神様なんです。詩織さんとは同居してます」


 何言ってんだコイツ、みたいな目で星野部長が見ていたが、本当に同居していてこっちでも一緒に過ごしていたことを説明する。『祟られている』理由も納得してくれた様で、その後は他の神様方も交えて大いに盛り上がった……もちろん、主に詩織さんと龍神様の話だったけど。

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