第27話 お土産

 翌日は小説の設定などを考えつつゆっくり過ごす。詩織さんが『休むと何か閃くかも』と言っていたけどまさにその通りで、ジャンルは『異世界ファンタジー』から『恋愛』か『ラブコメ』に変更することに。そして舞台は現代にしよう。要は、今自分が体験していることを参考にして物語を作っちゃえばいいのでは? と思いついた。人と神様の物語……何か面白いものが書けそうな気がする! そして『事実は小説よりも奇なり』を地で行っている自分の状態が少し楽しくなってきた。


「何をニヤニヤしておる? 小説の良いネタでも思いついたか?」

「はい。神様が沢山人間界に来られていることを知ってしまったので、それを元に現代フィクションを書こうかと」

「うむ。それはなかなか良いかもしれんな。私を登場させても良いのだぞ!」

「いや、流石にそれは生々しい感じになっちゃうからダメでしょう。あくまで設定として僕の周りの状況を参考にします」

「なんじゃ、つまらんのう」


 ちょっと残念そうな詩織さん。確かに詩織さんの私生活を書けば面白くはなりそうだけど、神様のファンが多い分、何言われるか分かったもんじゃないし。でも妙に人間っぽいところとかお酒や食べることが好きなところとか、大いに参考にさせてもらいますからね!


 楽しかった夏休みも終わってしまって出社。電車に乗ると現実に引き戻された感が半端ない。会社の皆さんへのお土産もあるのでちょっと荷物が多いんだよね。出社すると今日は課長の方が早く出社していた。


「おはよう、遠藤くん。休みは満喫できた?」

「あ、はい、お陰様で。えーっと、これ、皆さんで召し上がってください。地元の有名なお菓子なんです」

「有り難う、頂くわ」


 課長には特別にお酒のお土産もありますよー、と言うのは既に詩織さんから課長に連絡済み。今夜は家で宴会予定だ。しかし、その前に仕事、仕事! 休みボケした頭をなんとか回転させて仕事をこなす。メールを確認すると、先日行った支社の担当課長さんからメールが入っていた……けど、仕事の内容は一、二行で、残りは全部詩織さんに関すること。またあちらにもファンが増えた様ですよ、詩織さん。


 昼休み。課の先輩方と食堂に……と思っていたら何名か女性の先輩方が入ってきて、課の女性先輩も一緒になって連れ出されてしまった。連行!? 行く先は食堂だったのでいいんだけど。


「あ、あの、これは一体どういう……」

「さあ遠藤くん、休み中のことを洗いざらい吐いてもらいましょうか!」


 取り調べみたいになってるし。帰省中、メッセージアプリの詩織さんファングループに何枚か写真を貼り付けたんだけど、どうして僕と詩織さんが一緒に旅行しているのか、と言うことになり、皆さんの間であーでもない、こーでもないとメッセージが飛び交っていたらしい。そうか、一緒に帰省することは課長にしか言ってなかったもんな。


 実家に泊まる手前詩織さんは恋人と言うことにしてもらったことを説明。


「じゃあ、詩織様の浴衣姿は!?」

「ウチの実家は神社なんですが、ちょうど夏祭りだったのでそれに参加するためです」

「詩織様と一緒にお祭りなんて羨ましい! 他にも写真があるんじゃないの?」

「ありますけど……」

「見せなさいよ!」


 これだけ女性の先輩に囲まれたら出さざるを得ないよな……まあ、詩織さんは割りとオープンだから、見られてまずい写真はないと思うんだけど。一人の先輩が僕からスマホを取り上げて、それを皆で覗き込む様にして写真に釘付け。


「なんで詩織様の寝顔が!?」


 それは一緒の部屋に寝ていて、あまりにも気持ちよさそうに寝ていたのでつい……実際は朝起きたらいつもの様に同じ布団に寝ていたけど、その写真は僕が起きてから取ったものだからセーフ。


「ジャージ……」


 それは詩織さんの寝巻きです、と言うことにする。本当は普段着です。


「ちょっ! これ、水着じゃない!」

「家の近くに海水浴場が……」

「詩織様に水着を着せるなんて、ハレンチな!」

「いや、それ持ってきたの詩織さんですからね! メッセージアプリに載せろと言って写真取らされたんですが、流石にアップはしませんでした」

「ま、まあ、賢明な判断ね」


 と、いいつつ、皆さん食い入る様に詩織さんの水着姿を見ている。皆さんも神様だけど、夏にプール行ったりするんじゃないんですか? その後も皆さんじっくり詩織さんの写真を見てワイワイ。あの、そろそろスマホ返してください。


 昼食後、さっきまで一緒にいた皆さんから個別にメッセージが飛んできて、個別に詩織さんの写真を要求される。そしてくれぐれも男性の先輩方には公開しないようにと、皆示し合わせた様に同じ文言……いや、神様同士なんだから別に良いのでは? とも思ったけど、課の先輩に聞いてみるとやっぱりダメらしい。ダメな理由は教えてくれなかったけど。一人一人に写真を送るのは面倒なので、『詩織さんファングループ(女性)』を作ってそこに写真を貼り付けておいたら、速攻でサムアップやらグッジョブのスタンプがイッパイ返ってきた。

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