第23話 地元の支社訪問

 朝早くに空港へ。今日は白いワンピースに帽子と、お嬢様な風な服装の詩織さん。


「そう言えばトランクに服、詰めてましたよね? いつもみたいにに衣装チェンジしないんですか?」

「荷物もないのにコロコロ衣装が変わったらおかしいじゃろう? 七緒に『もうちょっとファッションにも気を使え』と言われたからのう。今日の服装はどうじゃ?」

「似合ってますよ。いつもジャージ姿しか見てないので、スカートとかワンピースは新鮮ですね」

「ジャージはお主が着ろといったのであろう? まあ、楽だから気に入ってはおるがな。ちゃんとトランクにも入れてきたぞ」


 実家でいきなりジャージは……まあ、寝巻きと言い張ればいいんですけど。そんなこと気にする様な親でもないし。飛行機に登場すると詩織さんのテンションは上がりっぱなし。窓際の席から外を見てはしゃいでいた。


「おお! 空を飛んでおる! こんな鉄の塊が飛ぶんじゃなあ」

「LCCと言って値段も安いんですよ。一時間ちょっとで着きますよ」

「新幹線とやらにも乗ってみたいのう。帰りは新幹線が良いな」

「いいですけど、結構時間かかるので覚悟してくださいよ」

「かまわん、かまわん」


 飛行機が離陸してから二人で喋っていると、あっと言う間に着陸。味気ないと言えば味気ないけど、便利なことに越したことはない。空港でタクシーを拾ってまずは支社へ。本社の様にビルの中にテナントとして入ってるのかと思っていたけど、そこまで大きくはないものの三階建ての自社ビルだ。あれ? 本社よりも人が多いの!?


「おー、思ってたのと違う。詩織さんはどうしますか? 外で待ってます?」

「私も中に入れてもらおうかの。知り合いがおるやもしれんしな」


 と、言うことで一緒に中へ。入るとテーブルの上に電話が置いてあって、『ご用の方はお知らせください』と書いてある。電話すると受話器の向こうで女性が対応してくれてほどなく隣の自動ドアが開き、声の主であろう女性が出てきた。


「お待ちしておりました、遠藤さんと……そちらの方は?」

「あ、えーっと、夏休みの帰省途中でここに寄りましたので、連れも一緒でいいですか?」

「はい……」


 まじまじと詩織さんをしばらく見つめて、ハッとした顔。そして何も言わずに慌てた様子で中に引っ込んでしまった。あー、あの反応。さっきの女性も神様だったか。またしばらく待っていると先程の女性が年配の男性、おそらく支社長の神様を連れて戻ってくる。男性の方はどこか面倒くさそうにノロノロ出てきたが、詩織さんの姿を見ると顔色が変わった。


「こ、これは詩織様!?」

「私を知っておるのか? 邪魔するぞ」

「お、お、お、お待たせして申し訳ございません! さあ、どうぞ中へ」


 詩織さんは会社関係の神様ではないんだけど……と思いつつ、会議室ではなく応接室に通された。なんか僕が詩織さんのお付きの人みたいなってるし。仕事の話はここの部長なり、課長なりに資料を渡して説明するだけだったんだけど、支社長直々の対応となってしまった。


「そ、それで本日はどの様な御用で? 神在月にはまだ早いですが……」

「ああ、用事があるのは私ではないぞ」

「あの、今日はこの資料をお渡しして簡単な説明をするために伺いました。僕の実家に帰省中なので詩織さんも一緒ですが、仕事には無関係です」

「ああ……えっと、じゃ、じゃあ君が遠藤くんかね?」

「はい、どうも。『人間の』遠藤です。あ! 皆様が神様であることは伺ってますので」

「ハァ……」


 困惑しながらも大きなため息を付く支社長。すぐに担当の課長を呼んでくれて、資料の説明をすることができた。もっともその女性の神様も詩織さんの前でガチガチになっていて、説明したことをちゃんと理解してくれたかどうかは微妙だけど……まあ、資料があれば分かるから大丈夫かな?


 少し緊張もほぐれてきた支社の神様たちが、ここのことを教えてくれる。ここは島根の隣県なので神在月にはかなり忙しく、その他の月も仕事が多いので支社自体も大きいらしい。ウチの神社のことも当然知っているとのこと。


「ほう、遠藤くんは神崎神社の縁者だったか。ウチの者が時々伺っているよ」

「有り難うございます。自分の会社が神様の作った会社だと最近知ったので、そんなご縁があるとは全然知りませんでした」

「しかし詩織様もお人が悪い。あらかじめお伝え頂ければもっと歓迎致しましたものを……」

「よいよい、今はこやつに世話になっている、単なる居候じゃからな。せいぜい夏休みを楽しむつもりじゃ」


 その後この辺りの名物や美味しいお酒の銘柄を聞いて、支社を後にする。帰りはフロアにいた神様全員でのお見送りで、とても恐縮してしまったけど詩織さんはニコニコと手を振っていて……やっぱり天界のアイドルなんじゃないの!? 多分、僕たち……と言うか詩織さんが帰った後は大騒ぎになるんだろうなあ。さて、お使いもこなしたことだし、実家に帰るとしましょうか。

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