第11話 再会と宴会

 『部屋に行く』と課長に言われた後、何やらおまじない様なものを唱えてもらって、僕の周りに漂っていると言う『神の力』は取り除かれた。『神の力』と言うより、詩織さんの残り香だよね……と、心の中では思ってる。それから仕事中は変な目で見られることはなく……と、言うか僕以外が全員神様と聞いて、僕の方が周りを見る目が変わってしまう。でも神様なのか人なのかなんて、僕には全く分からないんだけどね。今日は残業も必要ないと課長が言ってくれたので、定時後すぐに課長と二人で会社を出た。


「夕飯、どうしますか? 鍋でもしますか? 昨日も鍋だったけど……ああ、そうだ。すき焼きがいいかも」

「いいわね。じゃあ材料費は私が出すわ、お酒も欲しいし」


 やっぱりお酒は必須なんですね。課長は飲み会でもガンガン飲むし。いや、会社の皆さん、全員お酒には強い印象だったけど、神様だからだったのか。詩織さんも『神は祭りと酒が大好き』って言ってたもんな。


 いつものスーパーですき焼き用の食材とビールやら日本酒やらを買い込んで、部屋に帰る。ちゃんと玄関の鍵が掛かっていて、呼び鈴を押すと中でパタパタと人が走ってくる気配。やがてガチャっと鍵が開く音。


「ただいま~」

「おかえり、聖也。腹が減ったぞ! ……ん?」


 僕の後ろに立っていた課長に気がついた様で、一瞬詩織さんの動きが止まった。


「おーっ! お主、七緒か! 久しいのう!」

「久しいのう、じゃ、ないわよ! 今日は文句を言いに来たんだからね!」

「まあ、ここで言い争いもなんじゃから、入れ、入れ」


 僕の部屋なんだけどなあ、と思いつつ課長と一緒に中へ。課長に持ってもらっていたスーパーの袋も受け取って僕がすき焼きの準備を始めると、課長と詩織さんはテーブルを囲んで話し始めていた。


「ところで、なんで七緒が聖也と一緒に帰ってきた?」

「なんでも何も、私は彼の上司なんですからね。普通の人間の遠藤くんが、神の気配ビンビンで会社に来たら驚くでしょうが! あんた、アレほど神の力は抑えなさいと言ったでしょう?」

「アハハハ、部屋にいるとつい、な。外に行くときはちゃんと抑えておるぞ」


 あー、やっぱりこの二人は知り合いなんだね。課長は詩織さんに対して文句は言っているけどどこか楽しそうで、詩織さんもニコニコしながらお菓子を食べている。あれ、あんなお菓子は買ってないけど……きっと昼に買ってきたんだな。勧められて課長もボリボリ食べてるけど、あんまり食べたらすき焼きが食べれなくなりますよ。


「あの、お二人はお知り合いだったんですか?」

「まあね。私は最近こっちに来ていたから会ってなかったけど、五十年ぶりぐらい?」

「そうじゃな。私が前回下界にきたのが百年程前で、天界に戻って暫くしてお主がこちらに行ったからな。七緒よ、先程聖也の上司とか言っておったな?」

「あんたも『例の会社』のことは知ってるでしょう? 遠藤くんはそこに始めて入った人間だったのよ。なかなか人材を選ぶの大変で」

「ああ、そう言うことか。これで納得がいったわ」


 いや、僕は全然納得いってないんですけど! 『例の会社』ってなんですか? 神様の間では有名ってこと? まあ、神様だけで構成されている会社なら、何かしらの目的があって設立されたのは明白だけど。


「課長、ウチの会社って……」

「ああ、遠藤くんは商社だと思っているでしょうけどそれは表向きで、神々がこちらで暮らすサポートとか色々やってるのよ」

「お前の口座に生活費を振り込んでいるのも、その会社じゃぞ。お前の口座を伝えたが、誰も気が付かんかった様じゃのう」

「私は人事や経理の方まで見てないし、一回登録したら機械的に振り込まれるだけなんだから」


 ウチの会社、各地の名産品などを取り扱って全国から購入可能にしたりしている商社だとばっかり思っていたけど、それは表向き……と、言うか人間社会向き。神様の下界での生活をサポートしていて、各地にある支社では神様たちがその土地の名産品などを集めたり発送したりしていると。もちろんアルバイトで人を雇ったりはしているらしいが、本社で人を正社員として雇ったのは僕だけらしい。


「なんで僕だけ!?」

「神々だけでは考え方が偏りがちだしね。それに今まで職場に人間がいなかったからテスト的に雇ってみて、人から見てオフィスの違和感がないか確認しようってことになったのよ」

「ハハハ、その意味では全く問題なかった様じゃの。聖也は会社について何も言っておらんかったし」

「だって、ずっと普通の会社だと思ってたんですよ!」


 違和感も何も、居心地はいいと思っていたけど先輩たちは全然普通だったし、今日課長に言われるまでは全く考えもしなかったんですからね!


「なんで僕が採用されたんでしょう」

「いい意味で普通だったからよ。だから今日、遠藤くんを見た時はびっくりしちゃって。あんなのもう、神に取り憑かれて呪われてるレベルなんだからね! 人によっては死んじゃうぐらいの気配だったし」

「呪ってなんかおらんぞ。それに、私だってちゃんと人は選んでおるわ」

「遠藤くんみたいな普通の子を選んでおいて、良く言えるわね」


 さっきから普通、普通と言われているのがちょっと引っかかるけど、まあ確かに僕は一般的な人間ではある。父はサラリーマン、母は専業主婦。僕も普通に公立の中学、高校を卒業して、大学は一応国立の経済学部を卒業。就職活動はちょっと苦労したけど、今の会社に内定をもらえたので入社した……うん、やっぱり普通か。


「こやつの母方の祖父は神主じゃ。お主、子供の頃は良く神社で遊んでおったじゃろ」

「はい、確かに。父は仕事で出張が多かったので、大学に入るまでは神社近くの家に住んでましたね。母は神社を手伝ってましたし。大学に入って僕だけこっちに出てきましたけど」

「そうだったの!? 普通のサラリーマン家庭って言ってたわよね?」

「父は普通のサラリーマンですよ。母は実家を手伝ってましたけど専業主婦だったし」


 どうやら神社仏閣の関係者や子供の頃からそういう場所に慣れ親しんでいる人は、神々の力や気配に対して耐性……と言うか親和性が高くなるらしい。詩織さんが僕の部屋に来たのは『たまたま』と言ってたけど、じつはちゃんと人選して来たとのこと。


「なんで『たまたま』とかウソを?」

「説明が面倒じゃからな」


 そんなことだろうと思ってましたよ、ええ。まあそれでも今日は色々と謎が解けたり、知らなかった事実が判明したりでスッキリはしたかな。まだまだ話は盛り上がりそうだし、準備もできましたので夕飯にしましょうか!

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