ポケットの中の『7』(KAC20236)

都鳥

ポケットの中の『7』

 集めたプリントを届けに職員室へ行くと、先生の前には鈴木君が居た。

 先生は私に気付くと、「ああ、すまない。そこに置いておいてくれ」と礼とも詫びとも言えないような言葉を投げて机を指さす。それから、また正面に立つ鈴木君の方を向いた。


「次からは気をつけろよ」

 私が来た事がきっかけで、先生の説教が終わったのだろう。鈴木君はほっとしたような顔で「はい」と返事をした。


 職員室を出ようとする私に、鈴木君は早足が追いつく。なんとなく一緒に礼をしてから、ドアを閉めた。



「いやー 助かったよ」

 廊下を一緒に歩いているのは仲がいいからじゃない。あのまま一緒に職員室を出て教室に向かっていたら、自然に並んで歩くことになっただけで。


「何があったの?」

「これ、没収されちゃってさー」

 悪戯っ子のようにニヤリと笑いながら、鈴木君がポケットの中身をこっそり覗かせる。ゲームのソフトだ。学校に関係無いものを持ってきて、それを先生に見つかったのだろう。


 なんでそんなものを?と聞く前に、勝手に鈴木君が話し始める。

「今日さー テレビを見ていたら、おひつじ座のラッキーナンバーが『7』だって言うからさー」

 そう言いながら、もう一度ゲームソフトをこっそり見せる。『七つの国と七人の勇者』のタイトルが見える。なるほど、確かに『7』が付いている。


「でもさすがにゲームはだめでしょ」

 小さく笑いながら言うと、

「すぐに見つかったのがこれだけだったんだよー」

 口を尖らせながら、拗ねたように言った。


「あーあ、ラッキーどころか、逆にアンラッキーだったなーー」

 鈴木君は拗ねた顔のままそいう言うと、あっと思い出したような顔でこちらを向いた。


「いやでも、お前とこうやっておしゃべりできたから、やっぱりラッキーなのかもな」


 え?

 私に向かってにっこりと笑う顔にドキリとした。


「今まで、お前とこんな風に話す機会がなかったしな」

「べ、別に、機会がなかっただけで……」


 別に嫌っているだとか、話しにくいとか、そういう理由があるわけじゃあなくて。明るくてクラスの中でも人気者な方の鈴木君と、騒ぐのが苦手な私ではあまり接点がなかっただけだ。

 それに私は、本当はこんな風に……


「んじゃあ、またおしゃべりしていいって事だよな!」

「う、うん……」

 私の返事に彼はまたにっこり笑うと、手を振って教室の友達の輪の中に入っていった。



 まだ少しドキドキする心をため息で抑え、自分の席に座る。

 わいわいとクラスメイトたちが話す声の隙間から、鈴木君の声も聞こえる。


(やっぱりラッキーなのかもな)

 さっき、彼はそう言った。

 私と話せた事をラッキーだと、彼もそう思ってくれたのだろうか。


 ポケットに忍ばせた鍵についている、『7』の数字の付いたキーホルダーを、そっと握った。

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ポケットの中の『7』(KAC20236) 都鳥 @Miyakodori

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