第43話 帰省

「なぁ音葉おとは。1人で大丈夫か?」

「にひひっ、大丈夫だよ。栞菜かんなとかが助けに来てくれることになってるから」

「なるほど。確かにそれは心強いな」


 まぁ……栞菜ちゃんには、また迷惑かけることになるけどね……。

 ごめんね。うちの子がポンコツのダメ人間で。戻ってきたら、俺が責任もって世話するんで、少しの間お願いします。


「ねぇ……何か今、心の中で失礼なこと考えてなかった?」

「気のせいだよ」

「本当かなぁ」

「本当だって」

「まぁいいや。気をつけて行ってきてね。それと、ちゃんと帰って来てね」

「あぁ分かってるよ」

「行ってらっしゃい。アラタ君」

「行ってきます。音葉」


 ――――

 ――


 音葉達のライブバトルが終わって早数日。あの後、打ち上げやら、胡桃くるみちゃんの歓迎会やらをやっているうちに、あっという間にクソ親父との約束の日がやってきた。そんな訳で、嫌々ながら地元に帰ることになった。

 あ、ちなみに胡桃ちゃんとは、歓迎会で結構仲良くなった。主に音葉に対する愚痴や苦労なんかを話してたら意気投合した。今じゃお互いに名前呼びする仲になった。


「新幹線に乗ってる間は、大人しくしてろよ?」

「にゃ〜あ」

「いや、ほんとに頼むぞ。ホームズ」


 うちの愛猫、ホームズも連れて帰ることになった。まぁ、俺がいない間、音葉には流石に任せられないってことになったからだ。

 ネットで調べたら、新幹線に猫を乗せても大丈夫とのことだったから安心したぜ。今は、俺のバックの中で頭だけ出して大人しくしてる。

 ふむ。こうして見ると、某ゲームの主人公みたいだな。


「っと、そろそろ発車の時間だな」


 ぼやぼやしてるとあっという間だな。

 指定席を取ってあるから確実に座れるけど、ぎりぎりに行って乗り込むのに苦労したくないし、さっさと座ってしまおうか。

 あーあ……それにしても、まじでくそめんどくせぇなぁ。


 ――――

 ――


「あにぃ〜! こっちこっち!」


 駅から出てすぐに、風実歌ふみかの大変元気な声が辺りに響き渡る。

 うん。ちょい恥ずかしいから、あれやめてくれないかな? ほら、めっちゃ注目集めてるじゃん。お兄ちゃんは、シャイで恥ずかしがり屋さんだから目立つのは嫌いなんだよ?


「お帰り。あにぃ!」

「おう」

「よっ! 久々だな、アラタ」

獅雄れおさんもね」

「まぁとりあえず、乗れよ。腹減っただろ? 美味いラーメン屋に連れて行ってやるよ。もちろん俺の奢りだ」

「ゴチになります!」

「おうよ。胃袋が破裂するまで食わせてやるから、覚悟しろよ」


 それは勘弁して欲しいんだけどなぁ。


「てか獅雄さん。今さらなんだけど、今日平日なのに大丈夫だったの?」

「ん? 有給有給」

「へぇ〜、そんな簡単に有給って取れるもんなの?」

「まぁうちはホワイト企業だからな」

「さっすがぁ」


 これで年収2000万稼いでるんだから、頭が上がりませんわ。まさに出来る男って感じだね。

 まぁ、歩く18禁でもあるんだけどね。


「しかし、大変なことになったな」

「まぁね。ほんとにあのクソ親父には困ったもんだよ」

「はははっ、違いないな。でもまぁ、お前のことだから、何か勝算があるんだろ?」

「さぁ。どうだろうね?」

「そっか。ま、頑張れよ」

「うん」


 龍と同じで、変に追求してこないのがいいよな。流石兄弟っていったところかな。


「ちょ、あにぃ! 勝算があるなら、私にも教えてよ!」


 んでもって、うちの妹ちゃんは、こうやって無駄に追求してきちゃうのが、ダメなところだね。もう少し、龍と獅雄さんを見習った方がいいとお兄ちゃんは思うよ。


「ねぇあにぃ〜」

「うるさいなぁ。風実歌には教えない」

「何でさぁ」

「だって風実歌って嘘つくの超下手じゃん。クソ親父にバレたらどうすんだよ」

「うっ……確かに……」

「だろ? だから教えん」

「う〜、分かったよ」


 うんうん。聞き分けが良くて助かるよ。ここで駄々こねたら、必殺のデコピンをお見舞いしてやるところだったぜ。


「相変わらず、仲がいいな」

「まぁ俺はいいお兄ちゃんなんでね」

「ただのシスコンだろ?」

「違います〜」

「はいはい」


 ったく、獅雄さんまで俺のことシスコン扱いするんだからなぁ。


「ねぇあにぃ?」

「うん?」

「ずっと気になってたんだけど、バックに何入ってるの? さっきからずっとモコモコ動いてるんだけど」

「あぁ、ホームズだよ。ほれ、出てきていいぞ」

「んにゃ!」

「おぉ。ホームズだったんだ。久しぶり〜ホームズ」


 チャックを開けてやると、ホームズが勢いよく飛び出してきた。

 ずっと狭いところにいたから、体がうずうずしてたって感じだな。いやぁ、悪いね。


「何だよ。ネコ連れてきたのかよ」

「まぁ、仕方なくって感じでね」

「あんまり、シート汚さないようにしてくれよ」

「善処するよ」


 って言ってるそばから、ホームズの毛だらけになってるのは、今は黙っておこう。

 出る時には、ちゃんとコロコロローラーしとけば大丈夫だろ。


「あ、そうだ。アラタ」

「ん? どうしたの?」

「今日の夜はどうすんだ?」

「どうするって?」

「いや、さっき風実歌ちゃんから聞いたんだけどさ、何かお前の部屋もう無いらしいぞ」

「は?」


 え? 嘘でしょ?

 何でそんな事態になってんの?


「まじで言ってる? 風実歌?」

「うん、まじだよ。今は物置になってる。パンパンに詰まってるから、あにぃが寝れる場所はないね」


 あんのクソ親父が……。だったら、3日前に呼び出すんじゃねぇっての。それまでの間、どうやって過ごさせるつもりでいたんだよ。


「そんなアラタに朗報だ。龍が自分の部屋使ってもいいっ言ってたぞ」

「まじか。助かるわ」


 流石、龍だな。持つべきものは、部屋を貸してくれる友人だな。帰ったら、ラーメンでもご馳走してやるとするか。


「あにぃが良ければ、私の部屋でもいいんだよ」

「アホ言ってんな」

「ちょ、いくらなんでも酷くない?」

「全然酷くねぇよ。何で妹の部屋で寝泊まりしにゃならんのだ」

「それはね、あにぃ。愛だよ愛」

「そっか、残念だったな。俺はその愛は持ち合わせてないんだ。妹よ」


 まぁ何の愛か知らんが、この際どうでもいいや。


「悲しいよ、あにぃ。私はこんなにもあにぃのことを愛してるのに、あにぃは違ったんだね。よよよ……」

「あー大丈夫大丈夫。ちゃんと愛してるよ。風実歌ちゃん」

「わーい。私もだよ! あにぃ!」

「……何言ってんだ? お前らは?」


 さぁ? 俺にもよく分からないよ。

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