第11話 遊園地デート 前編
「お待たせシマウマ〜」
「これはこれは、アデランス東城さん」
「お? 流石、桜木君だね。まさか、このネタが通じるとは」
「まぁね。俺はアニメ派だったから」
「私も〜」
今日は、東城と約束していたデートの日だ。
てっきり、一緒に家から行くと思ってたんだけど、東城がデートといえば待ち合わせでしょと言い出して、駅前で待ち合わせとなった。
「んで? 10分遅刻なんだけど、理由を聞かせてもらってもいいですかね?」
「私的には、10分は遅刻じゃないんだよねぇ」
「ちっ、これだからO型は……」
「うわぁ〜出たよ、A型特有の血液型差別」
「へいへい。悪かったよ。それで? 今日はどこに行くの?」
前回同様、俺は目的地を聞いていない。当日のお楽しみだと言われたからな。
「にひひ、まだ内緒だよ」
「そうですか」
「それよりも、桜木君。何か言うことがあるんじゃないかな?」
東城はそう言って、その場でくるりと一回転をする。なるほど、服の感想を言えってことか。
白のベレー帽にクリーム色のシャツ。その上にデニムジャケットを羽織っている。下はスニーカーに黒のズボン。背中にはブラウンの鞄を背負っている。そして、首には昨日俺があげた、ペンダントを着けている。
「うん。似合ってるよ」
「何か適当じゃない?」
「そんなことないって。本当に似合ってるよ。文句の付け所がないくらい」
「にひひっ、ならよかった!」
いつもの東城は、黒1色のスウェットでまともにオシャレしている所なんて見たことなかったから、凄い新鮮な感じだな。
「それじゃ、行こっか」
「そうだな」
――――
――
「デートって、ここか」
「そうだよ〜」
俺達がやって来たのは、バスに乗って少しのところにある遊園地だった。
「でも、ここってあんまり人気がないで、有名なところじゃないっけ?」
「その分、ほとんど並ばないで、アトラクション乗れるからいいじゃん」
「まぁ、そうだな」
アトラクションの数は、そこそこ豊富ではあるんだけど、もうちょい先に行ったところにある、遊園地の方が新しく大きいってこともあって、そっちにお客さんが行っているんだよな。
それにどちらかと言うと、こっちは子供向けだから、デートに行くならあっちって感じだ。
「桜木君は、あっちの方がよかった?」
「いや、俺は人混みが苦手だから、こっちでよかったよ」
「だよねぇ。桜木君だったら、そう言うと思ってた」
流石東城さん。よく分かっていらっしゃる。その気遣い100点です。
「それじゃ、行こ!」
「まずは何から攻める?」
「そうだねぇ、あれがいいかな」
「いきなり、コーヒーカップかよ」
「いいじゃんいいじゃん。楽しいよ、コーヒーカップ」
「否定はしないね」
「なら、決まり! 早く乗ろ!」
俺は東城に手を引かれて、コーヒーカップに乗り込む。
コーヒーカップか。乗るのは随分と久しぶりだな。最後に乗ったのは、小学生の時だったかな? 妹と一緒に乗ったんだよな。
「お、おぉ〜、結構早いね」
「確かにな。こんなに早かったっけ?」
「ん〜どうだろ? 乗るのは、かなり久しぶりだからね」
「まぁ、この歳になると、なかなか乗る機会なんてないからな」
「だよね。でもさ、桜木君」
「うん?」
「にひひっ、楽しいね」
「そうだな」
ただ回っているだけ。なのに不思議と楽しくて仕方がない。
「うわっと」
「おっと」
「「あ……」」
少し強めの風が吹いて、東城の被っていたベレー帽が飛びそうになる。俺はその前に、ベレー帽を押さえた。
「わ、悪い……」
「う、ううん。今のは仕方ないよ……」
び、びっくりした……俺と東城の額がくっつきそうなくらい、近くにあった。
「……」
「……」
流石に2人共無言になる。
だってそうだ。今まで、お互いの顔があんなに近くなったことはない。それに、後もう少し近かったら……
いや、これ以上は考えるのはやめよう。
「ぼ、帽子、今は取った方がいいんじゃないか?」
「う、うん。そうだね」
東城はそう言って、ベレー帽を自分の足の下に挟むように置く。
「……そ、そうだ! 少しスピード上げようよ!」
「いや、俺はこのくらいが丁度いいぞ」
「まぁまぁ、そう言わずにさ。それ〜」
「おわっ!」
東城は中央にあるハンドルを勢いよく、ぶん回す。当然のように、回転のスピードはドンドンと加速していく。
「ちょ、待って! 早すぎだって!」
「あわわ、回し過ぎた!」
「ぎゃ、逆に回して!」
「わわ分かった! って、あれ? 私どっちに回したんだっけ?」
「右だ右!」
「えっと、じゃあこっち?」
「だぁー! 違う! 逆逆!」
「うえぇ〜」
さっきと同じ方向に回したから、回転はさらに早くなる。もう訳が分からないくらいに早くなっている。
「め、目が回る〜」
「は、早く止めてくれ……」
「そうしたいのは山々何だけど、もうどっちが右で、どっちが左か分からないよ……桜木君、何とかして……」
「お、俺も、もうよく分からない……」
「そ、そんなぁ〜」
既に自分達では調整出来なくなった、暴走コーヒーカップに俺達は、されるがまま回され続けることになった。
「……」
「……」
俺達は無言でコーヒーカップを降り、無言で早足に歩き、無言で側溝のところで前のめりになった。
「お、おえぇぇー」
「うえぇぇ……」
そのまま2人して思いっきり、えずいてしまった。幸いなことに、中身をぶちまけることはなかったが、もし何かを腹に入れていたらと思うと恐ろしい。
「ぎ、ぎもぢ悪い……」
「お、俺も……」
嗚咽が止まらない。胃の中がぐちゃぐちゃで、胃液が上がってきそうだ。
「にひひ」
「ははは」
少しの間、2人でおえおえやった後に、顔を合わせて笑いが漏れた。
「何やってるんだろうね。私達?」
「ほんとだよ」
「遊園地デートに来て、1発目からこれって」
「東城が悪いんだぜ? いきなり、あんなにハンドルを回すから」
「えぇ〜、私のせいなのぉ〜」
ったく……なんと言うか、こういうのも俺達らしい。締まらないっていうか、無茶苦茶っていうか。
「あーあ、もうコーヒーカップは懲り懲りだよ」
「同感だな」
「にひひっ」
「気を取り直して、次に行こうぜ」
「うん!」
その後、俺達は色々なところを回った。ステージのショーを観たり、メリーゴーランドに乗ったりした。
「さぁ、桜木君! そろそろメインイベントといこうよ!」
「メインイベントって何だよ?」
「もちろん、あれだよ!」
「げ……」
東城が指さしたのは、この遊園地で1番の目玉である、ジェットコースターだ。
「あ、あー……あれは、やめといた方がいいんじゃないかなぁ〜?」
「え? 何で?」
「い、いやさ……ほら、結構並びそうじゃん?」
「全然並んでないよ」
「……」
うっ……確かに全然並んでない。何だったら、行ったら速攻で乗れそうだ。
「ははぁ〜ん。私、分かっちゃった」
「な、何だよ……?」
「桜木君、怖いんでしょ?」
「ははは……そんな訳ないじゃん……」
「と言いつつも、めっちゃ目を逸らしてるけど?」
「……」
「へぇ〜、ふ〜ん、ほぉ〜」
こ、こいつ……ここぞとばかりに。
「そっかぁ〜、桜木君が怖いなら、諦めるしかないかぁ。あーあ、残念だなぁ」
「お、お前……卑怯だぞ」
「え? 何のこと? 私は桜木君のことを思って、仕方なく諦めようとしているんだよ。本当は乗りたいんだけどなぁ」
「……わ、分かったよ! 乗るよ! 乗ってやろうじゃないか!」
「おぉ! さっすがぁ〜」
「よ、よし……行くぞ……」
「うんうん。レッツゴー!」
と、意気込んで来たのはいいものの……
「あの〜桜木君? まだかな? 係員さん困ってるよ」
「も、もうちょい待ってくれ……今、心の準備をしているところだから」
「そう言って、既に15分は経過しているんだけど……」
そんなこと言ったって、仕方ないじゃんか! 震えが止まらないんですよ。足はガックガクで、産まれたての子鹿みたいになってるし、冷や汗が止まらないですよ!
「えっと……やめとく?」
「い、いや……ここまで来たら、何がなんでも絶対に乗ってやる」
「じゃあ、いい加減覚悟決めなよ」
「わ、分かってるよ……今、その覚悟を決めている最中なんだ」
「あぁ……ま〜た、話が振り出しに戻ったよ……」
そうですね……この会話、もう5回目ですもんね。
「はぁ……もう、仕方ないなぁ。ほら、乗ってる間、私が手を繋いであげるから」
「べ、別に……そんなことしてもらわなくても……大丈夫だよ……」
「そう言いながら、ちゃっかり握ってるじゃん」
うるさい、ほっといてくれ。これは、俺の意思に反して、体が勝手に動いただけだ。
「あの〜、そろそろいいですか?」
「あ、すいません。今乗ります。ほら、桜木君行くよ」
「お、おう……」
そして俺は、東城に手を引かれながら、ジェットコースターに乗り込む。幸か不幸か、俺ら以外に並んでいる人がいなかったため、1番前の席に案内された。
「にひひっ、ビビってる桜木君、可愛いねぇ」
「か、からかわないでくれ……」
「ごめんごめん」
ちくしょう……覚えてろよ、東城。
「お? 動き出したよ」
「そ、そうだな……」
や、やばい……これ、最初っから登って行くタイプのやつかよ。てことは、落ちた瞬間に一気に加速して、猛スピードで振り回されるってことかよ。
お、終わった……俺は死ぬ。間違いなく死ぬ。
「ま、待って……やっぱりやめよう……今すぐ降りよう……」
「いやいや、何言ってるの。もう無理だって」
「そ、そんなぁ……」
「ちゃんと手握っててあげるから」
「絶対だぞ! 何があっても絶対に離さないでね!」
「分かった分かった」
そうこう言ってるうちに、1番上までやって来てしまった。
うへぇ……た、高ぇな、おい。マジでここから落ちて行くのか? あー無理だ。死ぬ。絶対に死ぬ。
「落ちるよ、桜木君」
「い、いちいち言うな……」
「にひひっ、だからビビり過ぎだって」
「う、うるうるうるさい。うわあぁー!」
「わぁー!」
ああああああああぁぁぁーー!!! ついに落ちやがった! 無理無理無理! 死ぬ死ぬ死ぬー!
頼むから早く終わってくれー!
「だ、大丈夫? 桜木君?」
「ぜ、全然大丈夫じゃないです……」
よ、ようやく止まった……よ、よかった。俺、ちゃんと生きてる。途中マジで死ぬかと思ったもん。
「ほら、とりあえず降りよ」
「あ、あー……その、な? ちょっと、俺のお尻とこの椅子が仲良しになっちゃって、離れてくれないんだよ……」
「それって、腰が抜けたってことかな?」
「まぁ……そうとも言う……」
「うっそ、マジ……?」
「マジっす……」
俺は東城に手伝ってもらって、ジェットコースターから何とか降りることが出来た。その後、近くのベンチまで連れて行ってもらった。
「はい。これ飲んで、落ち着きなよ」
「……ありがと」
「まさか、桜木君があんなに絶叫系が、苦手だったなんてね」
「あれだけは、どうしてもね……」
「何か理由でもあるの?」
「トラウマがあってね」
「それって、聞いても大丈夫なやつ?」
「まぁ、問題ないよ」
忘れもしない。あれは中学の修学旅行でのことだ。大型の遊園地に行って、今回と同じようにジェットコースターに乗ったんだ。その時の俺は、絶叫系大好き人間だったから、ウッキウキだった。ただ、そこで事件が起きたんだ。
ジェットコースターには必ず、安全バーが取り付いている。当然、俺が乗ったやつにも付いていて、足のところにがちゃんとするタイプだった。それが、上手くハマらなかったのか、俺のやり方が悪かったのかは分からないけど、しっかりと固定されることなく、発進してしまった。
そのおかげで、俺は結構ガチで死にかけたんだよな。それ以来、絶叫系が受け付けられなくなったって訳だ。
「まぁ、そんなことがあったんだよ」
「なるほどね。確かにそれはトラウマになるね」
「だろ?」
「ごめんね」
「ん? 何が?」
「いや、そんな事情があったのに、私、無理矢理乗せちゃった……」
「そんなこと気にしなくていいよ」
「で、でも」
「だから、いいんだって。最終的に乗るって決めたのは俺なんだし」
とは言っても、東城のことだから気にするんだよなぁ。こりゃ、下手に言わなければよかったかもな。
「あー、どうしても気にするんだったら、お詫びに飯奢ってくれよ。俺、腹減っちゃってさ」
「いやいや、元々私持ちなんだけど」
「まぁそうだけどさ、気分の問題だよ気分の」
「にひひ、何それ」
「いや、大事だぜ? 気分って、ほら、世界的に有名なプロレスラーも言ってただろ? 元気があれば何でも出来るってさ」
「気分じゃなくて、元気になってるじゃん」
「あれ? 本当だ。でもまぁ、どっちも似たようなもんだって」
「はぁもう……分かったよ。そういうことにしといてあげるよ」
自分でもちょいと無理があると思ってたけど、まぁ何とか、東城も納得してくれたみたいだな。若干呆れながらだけどね。
「それじゃ、早く行こっか。私もお腹すいちゃった」
「おう」
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