第4話 1日目の終わりと2日目の始まり

 よし、これで準備オッケーだな。

 夕飯を食い終わり、洗い物を済ませる。ご飯も明日の朝6時半に炊きあがるようにした。

 これで、今日やることは一通り終わりだな。

 後は、風呂に入って寝るだけなんだけど、未だに東城が上がって来ないんだよなぁ。

 かれこれ30分以上は経っているぞ。女子は、買い物と風呂が長いって言うけど、いくらなんでも長すぎないか?


「桜木君〜上がったよ〜」


 っと、噂をすればだ。


「随分長かったね――って!? なんだその格好!?」

「ん?」


 いやいや、東城さん! ん? じゃないからね!

 何でTシャツ1枚なの!

 幸いと言うべきなのか分からないど、Tシャツの丈が長いおかげで、上手い具合に下の方まで隠れている。ただ、かなり際どいラインだ。下手したら見えてしまうぞ。


「あーこれ? 私のお気に入りのTシャツなんだ。このでっかく書かれた、惰眠って文字が最高。センスあると思わない?」

「そんなこと聞いてないわ!」


 まぁ確かに、センスはあるけどね。店に売ってたら、俺も買っちゃうと思う。



「いやいや、じゃなくて! 俺が聞きたいのは、何でTシャツ1枚なのかってことだよ!」

「そんなの楽だからに決まってるじゃん。あ、それに下はちゃんと履いてるよ」


 それならよかった。ん? 良かったのか? いや、これでいいんだよ。何も履かれてなかったら、マジでやばいから。


「にひひっ、期待しちゃった?」

「してないよ!」

「そっかそっか〜」


 あぁ……本当にもう。だから、無防備過ぎなんだってば。一応、俺男なんだぜ? その辺分かってますかね、東城さん?


「てか、ちゃんと髪拭かないとダメだろ」

「えぇ〜、いいよ自然乾燥で」

「いやいや、それでも最低限は拭こうね。水が滴り落ちてるから……」


 しかも、そのままソファーに寝っ転がらないでもらえますか。余裕でビジョビジョになってるからね。あーあ……床も濡れてるよ。


「だって、めんどくさいじゃん」

「女の子がそれ言っちゃうのか?」

「女の子でもめんどくさいものは、めんどくさいの。そんなに言うんだったら、桜木君が拭いてよ」

「はぁ……分かったよ。ちょっと待ってて」

「はーい」


 俺は洗面所に、ドライヤーとタオルを取りに行くと、信じられない光景が広がっていた。


「マジか……」


 さっきまで、東城が着ていた服と下着が、乱雑に脱ぎ捨てられている。あーこれは、今使ったタオルだな。ったく、せめてカゴに入れてくれよ。とりあえず、床に脱ぎ捨てられている物を拾い集めて、まとめて洗濯機にぶち込む。洗濯は、明日でいいか。


「なるほど、よく分かったよ……」


 東城はとにかくだらしない。しかも、飛びっきりにだ。俺が今まで会った中でも、ぶっちぎりだよ。もしも、だらしなさを決める世界大会があったら、メダルは確実だな。

 まぁ、とりあえず今は、東城の髪を乾かしてやらないとだな。


「おーい東城? って、えぇ……」


 おいおい、こいつマジか……

 左手にコーラ、右手にスマホを持って、足でテレビのリモコン操作をしている。

 器用なのは認めるけど、だらしないを通り越して、行儀が悪い。俺が親だったら、めちゃくちゃ怒ってるところだぞ。


「あ、おかえり〜」

「おかえりじゃないよ。今すぐそれをやめなさい」

「は〜い」


 うん。素直でよろしい。

 もし、やめなかったら、どうしようかと思ったぜ。


「ほれ、こっちに座って」

「うん、よろしく」


 東城を椅子に座らせて、髪を乾かす作業に入る。ソファーでもよかったんだけど、水滴でビジョビジョだからやめた。


「熱かったり、くすぐったかったりしたら言って」

「はーい」


 初めにタオルで、濡れた髪の水分を拭き取っていく。その後に、ドライヤーを中温にしてゆっくりと丁寧に乾かす。


「どう?」

「うん、気持ちいいよ」

「そりゃよかった」


 あーあ……やっぱりだ。

 多分、普段からちゃんとしてないから、髪が傷んでいる。

 せっかく綺麗な髪してるのにもったいないな。


「桜木君、上手いね」

「昔、妹にやってあげたからね」

「へぇ、妹いるんだ」

「4つ下にね」


 妹も結構ずぼらな性格していたから、子供の頃はこうやって、髪を乾かしてあげたっけな。

 そういえば、大学に進学してからは、1回も会ってないな。元気にやってるかな?


「桜木君」

「ん?」

「眠くなってきた……」

「もうすぐで終わるから、我慢してくれ」

「ふぁわーい……」


 ったく……子供みたいに我儘だな。

 これが、あんなにすごい音楽をするんだから、不思議なものだ。


「ほい。終わったぞ」

「ん〜ありがとう〜」

「マジで眠そうだな」

「うん……もう限界かも……」

「んじゃ、さっさと寝ろ。あ、布団は敷いてないから、自分でやるんだぞ」

「えぇ……じゃあ桜木君の布団で寝る……」

「何でだよ……」


 東城はそう言いながら、うつらうつらとし始めた。

 ありゃりゃ……これは本当に限界そうだな。こんなことなら、さっき荷物置きに行った時に、布団も敷いとけばよかったな。ったく……仕方ないな。


「分かったよ。今日は俺の布団使っていいから」

「う、うん……ありがとう……」

「って、ここで寝るな」

「う〜」


 あーもう……

 普通だったら、ブチ切れもんなんだけど、今の東城は、どうにも可愛く思えてしまうから、怒るに怒れない。


「ほら、行くよ。歩ける?」

「無理……」

「ったく……」


 仕方ないなぁ。


「東城。ちゃんと捕まっててよ」

「うん……」


 俺は東城を抱き上げて、寝室まで連れて行く。

 因みに変なところは、一切触ってない。てか、こんな状態の東城に、何かするとか無理だ。

 まぁ、格好が格好だから、全く意識しないのは不可能だ。だけど、ここは俺の鋼の精神で我慢だ。そう、俺は紳士だ。カッチョいい紳士は寝ている女の子を襲ったりしないものさ。


「よし」


 東城を布団に寝かせて、毛布をかけてやる。

 やれやれ……まさか俺の布団に女の子が寝ることになるとはな。布団さんもビックリだよな?


「すぅ……すぅ……」


 しかも、こんなに可愛い子がな。ほんと、人生何があるか分からないものだ。

 ま、せっかくだから、このダメ人間契約を楽しんでみるとするか。

 小説のいいネタになるし、ヒントも色々手に入るだろう。


「んじゃ、おやすみ。東城」

「…………」




「……ばぁか」


 ――――

 ――


「ふぁわ〜……おはよ、桜木君」

「おはよ東城。いや、おそようだな」


 もうそろそろ12時になるくらいで、東城が起きてきた。

 しかし、随分と寝てたな。昨日布団に連れて行った時間から逆算して、12時間を超えてるぞ。


「お腹空いた。何かある?」

「ちょうど昼飯が出来たところだよ」

「ん。じゃあ食べる」

「あいよ。その前に顔洗ってきな」

「はーい」


 やれやれ……俺は東城のオカンかよ。


「それで何作ってくれたの?」

「オムライスとワカメスープ」

「おぉ!」


 顔を洗って席に着いた、東城に昼飯を出してやる。


「あれ? この食器どうしたの?」

「東城が寝ている間に買ってきた」

「仕事が早いねぇ」

「まぁ、無いと困るからね」


 今日は大学が休みだったから、少しだけ早起きして買ってきたものだ。まぁ、全部百均なんだけどね。


「んじゃ、いただきます!」

「はいよ」


 よかった。今回は1人で食ってくれたな。

 流石に昨日のは勘弁だったから、安心したぜ。


「うん! やっぱり美味しいよ!」

「そりゃどうも」

「むぅ〜、何か反応が薄くない?」

「そんなことないよ。内心結構喜んでいるよ」

「本当かなぁ?」

「本当本当」


 今まで、妹以外に手料理を振る舞うことなんてなかった。その妹も、東城みたいに素直に美味しいってあんまり言ってくれなかったから、こうやって言ってくれるのは、マジで嬉しい。

 ただまぁ、表に出すのが照れくさいから、クールぶっているだけだ。


「桜木君は今日はどうするの?」

「いや、今日は東城の家から、荷物を全部持ってくるんじゃなかったの?」

「あ、そういえばそうだったね」

「忘れてたのかよ……」


 そう思って、午前中のうちにやることは済ませていたんだけどなぁ。


「それじゃ、食べ終わったらすぐに行こうか」

「了解」

「あ、私着替えがないや」

「そんなことだろうと思って、洗って乾かしてあるよ」

「桜木君って、マジですごいね」

「普通だよ。普通」


 こんな感じで、どうでもいい会話をしながら、昼飯を食べて、身支度を整えてから東城の家に向かった。


 ――――

 ――


「ふぅ……思ったよりも、早く終わったね」

「まぁ、荷物が少なかったからね」


 東城の家から持ってきたのは、ダンボール2箱と楽器類だけだった。楽器類は重かったけど、ダンボールの中身は衣類とかだったから、そんなに重くなくて楽だった。

 事前に要らないものは捨てたとはいえ、かなり少ない方だな。

 まぁ、おかげで2往復で済んだから、良しとしますか。


「桜木君はこの後、何か用事はあるの?」

「今のところ特に何もないよ。だから、小説書こうかなって思ってる」

「へぇ〜、今はどんなの書いてるの?」

「ラブコメ系だね」


 てか、俺はそういうのしか書けないんだよな。どうにも、昔から戦闘描写を書くのが苦手で、バトルものが上手く書けない。

 だから、必然的にそういうのが必要ない、ラブコメばかりになる。


「因みに捗ってるの?」

「うーん……微妙だね。日常回は何とかなるんだけど、デート回とかみたいな、女の子とイチャイチャするのが、あんまり上手くいってない感じかな」


 残念ながら俺には、そういう経験がないからなぁ。想像だけだと、どうしても限界がある。

 って、これは言い訳か。書けないのは俺の実力不足だもんな。


「ならさ、今から私とデートしようよ!」

「え?」

「桜木君に協力してあげる。少しは参考になるでしょ? にひひっ」


 まぁ、確かにいい参考になるか。女の子とデート何てまともにした事ないし、ましてや、東城みたいな可愛い子とデート出来るなら、得しかない。断る理由がないってやつだ。


「分かった。じゃあお願いするよ」

「りょ〜かい」

「それで、どこに行く?」

「えぇ……それを女の子に聞くのは、ポイント低いよ」

「そんなこと言ったって、今決まったんだから、仕方ないだろ」

「まぁ、確かにそうだね」


 事前に約束してたなら、俺だって色々と調べたりするぞ。いい感じのカフェとか、お洒落な雑貨屋とかさ。


「にひひっ、それじゃ、私がとっておきの場所に連れて行ってあげるよ」

「ほぉ。それは楽しみだ」

「うん! 期待してていいよ!」

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