4 異世界からの旅人

 その後、無事烏丸のお使いを終えた八尋は、空港まで移動する為に市街地へとやってきた。

 予約した飛行機の離陸時間まではかなり時間があり、その時間を潰す必要があった事や、小腹が空いていた事もあり適当な飲食店へ足を踏み入れ、閑散とした店内でメニューを眺める。

 事件が起きたのはその時である。


「……ッ!?」


 閑散とした店内に魔法陣が展開された。


(な、なんだ……まさか連中の報復か……ッ!?)


 先程争った魔術結社の連中が自分に報復しに来たのではないかと思い、思わず立ち上がり魔法陣から距離を取る八尋だが、そこから何か攻撃が放たれる事は無い。

 代わりに現れたのは……人だ。


(転移魔術……こんな所に? っていうかちょっと待て)


 誰が何の目的でこんな閑散とした飲食店に転移してきたのかという疑問が浮かぶが、そんな疑問が吹き飛ぶ程、目の前に現れた同年代程の少年の風貌はイカれていた。

 この地域の気温は年間を通して25度前後を推移する温暖な気候となっている訳だが……そんな地域にも関わらず、少年が身に纏っていたのは防寒着。

 そして。


「……△■◆○×、□■◆」


 この国で一般的に使われているものでは無い、八尋の聞いた事の無い言語を口にしていた。


(……待て、待て待て待て!)


 言語の事はこの際どうでも良い。

 そんな事より強い既視感を覚えた。


 知っている。

 恐らく転移魔術でやってきた、気候を完全に無視した衣服を着ていた女の子を。


 だからこそ。

 だからこそ全く知らない言語を使っているからどうコミュニケーションを取れば良いのかは分からなくても、自分はこの少年と話をしなければならないと思った。

 そして少年は八尋に視線を向けてから、喉を軽く指で叩いてから言う。


「ああ、悪い悪い突然隣に出てきて。びっくりしたよな。謝るよ。ごめん」


(……なんだ日本語を喋れるのか? いや、さっきの動き……魔術で翻訳してんのか?)


「じゃあ俺行く所あるからこれで──」


「あ、ちょっとま──」


「ちょっとそこのアンタ。何処から出てきたのかは知らないけど、店に入っておいて何も頼まない気かい? まさかそんな訳ないよねぇ?」


 八尋が引き留めるより先に店員のおばちゃんに結構強めの圧が掛けられる。

 そして呼び止められた少年は少しだけ固まった後、踵を返して戻ってきて八尋に言う。


「ごめん……初対面の奴にこんな事頼みたくは無いんだけど、ここの飯代貸してくれないか?」


 金が無いなら無理にでも店を出れば良いのにと思いながらも八尋には好都合だった。


「分かった。この店の分は奢ってやるよ」


「ほんとか!? マジでありがとう! この恩は忘れねえ!」


「ただし一つだけ条件を付けてもいいか?」


「条件?」


「少し話を聞かせてくれ。アンタはもしかしたら俺が知りたい情報を知っているかもしれねえ」


「……なんだか分からねえがそんな事でいいならいくらでも」


 そう言った少年と共に席に着く。

 席に着くなり少年はその場違いな防寒着を脱いで近くにあった荷物入れの籠へと入れた。


「此処熱いな。こんな服着てたら馬鹿みたいに思われる……って待てよ。もしかして俺をそういう馬鹿な奴だと思って話聞こうと思ったのか? 知りたい情報ってのも面白エピソードとか」


「いや、そういうつもりじゃねえんだ。別に変な奴とも思ってねえよ」


「よ、良かった。とりあえず違うのか……あんまり変な奴だとは思われたくねえからな」


 安堵するように息を吐いた後、少年は言う。


「ああ、話の前に悪いけど、俺のも適当に注文しといてくれるか? 聞いて話す事はできても文字は読めねえからよ」


「聞いて話せるだけでもすげえ魔術だな」


「あ、この世界は普通に魔術が認知されている世界なんだな」


「……世界? なんだその自分は異世界人ですみたいな言いぐさは」


「その感じだと別世界の観測はされていないか。まあ随分と孤立した座標に位置していたからな。そういうパターンも十分あり得るか」


「……とりあえず注文するぞ。すみません、これとこれ。コイツにも同じのお願いします」


 聞きたい事は山のようにあったが一旦注文だけ済ませて、それから言う。


「……で、何。お前、別の世界から来たのか? というかそんなの存在するのか?」


「存在するし別の世界から来た。でなきゃこんな馬鹿みたいな服装してこねえだろ」


 苦笑いを浮かべた後、少年は訪ねてくる。


「で、聞きたい事ってなんだ。見ず知らずの俺に飯を奢ってまで、お前は何聞きたかったんだ?」


「仲間にお前みたいな女の子がいてな。ソイツの事についてお前が何か知らないかを聞いてみようと思って」


「俺みたいなのっていうと……ああ、馬鹿みたいな服装してたって事か。そこに共通点があるから何か知らないか、と」


「そういう事だな」


「馬鹿は否定してほしかったなぁ……まあ成程、理解した。でもまだその子の事を何も聞いてねえけど厳しいと思うぜ? ほら、その子が有名人とかだったらともかく、そうじゃなければ何十億分の一の誰かだ。かなり細い糸だぞ」


「それはそうだけど……ああ、でもそれなりに有名人だった可能性もあるぞ」


 あれだけの素質を持ったヒーロー気質の人間だ。

 別の世界とやらで活躍して名が売れていてもおかしくは無い。

 少なくとも魔術を使って別の世界に飛んでくるような、およそ一般人では無いであろう少年のような相手になら尚更だ。


「有名人……ね。だったら話聞けばお前が知りたい何かが分かるかもしれないな。でもそれを聞く前に一つ……飯奢って貰っといて言える立場じゃねえけど、これだけ言わせてくれ」


 少年は諭すように言う。


「その子と仲間って事はそれなりの距離感で関わっている筈だ。そんで俺に聞く位なら、既にその子に直接何かを聞いているだろ。それで何も教えてくれなかったんだとすれば、あんまり詮索しない方が良い情報なんじゃないか? そういうの無理に知ろうとすると関係壊れるぞ?」


「普通ならな。でも教えてくれないんじゃない。本人も知らない。アイツは記憶喪失なんだ」


「記憶喪失?」


「そして記憶喪失になるような事件に巻き込まれている。俺が情報を知りたいのは興味本位じゃねえ。まだ未解決な事件を解決に近付ける為なんだよ」


 二年経ち、あれからレイアが犯人に襲撃されたような事は無い。

 だけど今後それが起きない保証も無く、今のレイアがそれを退けられるという保証も無い。

 故にどれだけ微かな情報でも、手に入れる機会があるなら手に入れておきたい。


「穏やかじゃねえな……とりあえずその仲間の事を教えてくれるか? 一体何が起きた」


「口頭で色々言う前に写真見せとくか。それでお前がアイツの事を知ってりゃ滅茶苦茶話が早くなりそうだし」


 そう言って八尋は先日休みの日にレイアと軽く旅行に行った時に取った写真を見せようと、ポケットからスマホを取り出す……取り出すが。


「っておいおいふざけんな。さっきまで20パーセント位あっただろ、それが1パーセントって……あーくそ、マジかよ」


「……どうした?」


「悪い。写真は一旦無しだ。バッテリーが切れやがった……幸先わりぃ」


「まあ仕方ねえだろ。それ抜きで話進めていこうぜ」


 そう言ってお冷を一口飲んだ後、少年は言う。


「じゃあ改めて、その子がどういう事に巻き込まれているかを教えてくれ。事の大きさ次第じゃ個人が特定できなかったとしても、何かしら分かる事もあるかもしれねえ」


「ああ、じゃあ気を取り直して」


 言いながら軽く話す内容を纏め、あの日の話をする。


「大体二年程前だな。アイツは俺の家で血塗れで死にかけてたんだ。多分その状態でどこかから魔術で転移してきたんだと思う。で、一命は取り留めたんだけど記憶は無くなってるし、犯人の見当も付かねえって感じで……って、どうした?」


 話している途中で明らかに少年の空気が変わったのに気付いて、思わず話す口が止まった。

 しかも女の子が死にかけていたという凄惨な情報に驚いたりしているのではなく……感じたのはもっと別の感情の流れ。


 何かに気付いたようなそんな感じ。


 だとしたら待っていた反応。

 自身はレイア程人の感情を読む事に長けてはいないが、それでもそう感じて……寒気がした。


(いや……ちょっと待てちょっと待て馬鹿か俺は!)


 自然と警戒心を一気に引き上げ、自身の軽率さに内心で悪態を吐いた。

 この二年間である程度の経験を積んでいく中で、自分なりに人を見る目のような物を培ってきたと自負している。

 その上で現状、目の前の少年が悪い人間には思えない。

 それでもこの少年が一番近いのだ……加害者像との距離が。

 レイアが別の世界から来たと仮定した場合、これまで出会ってきた誰よりも容疑者の可能性が高いのだ。


 そしてこの反応だ。

 警戒するなという方が難しいし、質問内容も追加しなければならない。


「……いや、何でもねえ。続けてくれ」


「いや、悪いけどすぐには再開できねえ……その前に一つ質問させてくれ。それ次第だ」


「……なんだ?」


「お前はこの世界に何をしに来た」


「成程……どうやら俺はその子を半殺しにした加害者と疑われているらしいな」


「……お前は二年前に死にかけの誰かがこの世界へと飛んだ事について何かを知っているだろ。それがそういう事件が有ったって事を思い出したとかなら良い。だけど身に覚えがあるって可能性もあるよな。殺し損ねた相手を確実に殺す為にこの世界に来た可能性も浮かんでくるだろ」


 それはただの被害妄想に近いのかもしれない。

 だけどそれだけの警戒はしなければならない。

 場合によっては適切に対処する必要だって出てくるのだから。

 そして少年はとても言いにくそうに。

 それでも一拍空けてから目を反らさずに言う。


「……そうだな。身に覚えがある。身に覚えがあるから俺は此処に居るんだ。俺は二年前に殺し損ねた女を殺す為にこの世界に来た」


 包み隠さず真っすぐに、最悪な自白を。


「……は?」


 あまりにも真正面からの自白に思わずそんな間の抜けた声が出る。

 自然と拳を握っていて思わず立ち上がり、殴り掛かりそうになっていた……その時だった。


「でも別件だ。お前の仲間の一件とは関係ない……筈だ」


 少年の言葉が八尋を踏み留まらせた。

 踏み止まらせて、机を強く叩くに留めさせた。


「関係ないってどういう事だ。てめえはアイツの話何も聞いてねえだろ! でもタイミングは一致してる。それでどう違うって言うんだ! 適当な事言ってんじゃねえぞ!」


「適当じゃねえよ。気持ちは分かるけど、一旦落ち着いて話聞いてくれないか……頼むよ」


「……ッ」


 諭すようにそう言われて、ひとまず警戒心を解かずに一旦席に座り直す。


「ありがとう……助かるよ」


 そう言って安堵するように小さく息を吐いた少年は、一拍空けてから言う。


「確かに俺は殺し損ねた女を殺しに来た。だけどその女がお前の仲間じゃない根拠はあるんだ」


「どんな?」


「お前だよ」


 そう言って少年はまっすぐ八尋の目に視線を向ける。


「お前はとても綺麗な魂をしている……そんな奴があの女の仲間な訳がない」


「は? 魂?」


「そ、魂だ。俺にはそれが知覚できる」


「……そういう特異体質か」


 魂がどうだのという話をどう解釈すればいいのかは分からないが、少年の言葉を鵜呑みにして自分なりに解釈するとすれば、それはつまり心が綺麗とでも言いたいのだろうか?


「そういう事になる。まあ正確にはそういう力もあるって感じだけど。とにかくお前はあの女とは相いれないだろうな……仮に猫を被っているとしても、あんなドス黒い魂の女が二年もそれを続けられるとは思えない」


「……ドス黒い魂」


「全くその子と繋がらねえだろ。そんで記憶が消えた程度で魂の本質が変わる事はない。二年間、その子がお前にとって仲間だと思えるような言動をしてきたなら、きっと多少の性格の違いみたいなのが見られても、記憶が消える前とその本質は変わらない筈だ。だから……俺の敵はお前の仲間じゃない。ただ偶然が重なっただけだ」


「……そうか」


 自然と握っていた拳を緩める。

 目の前の少年が嘘を言っているようには思えない。

 言葉の通りそういうろくでもでないような人間を狙っていると、そういう風に感じたから。

 感じるくらいに、八尋でもそれが分かる位、少年はまっすぐな目と声音をしていた。


 そして少年の狙っているどす黒い魂の女というのがレイアではないと確証を持つために、八尋は少年に問いかける。


「一応確認なんだけど……お前の狙っているソイツは一体どういう奴なんだ」


「殺人鬼だよ。擁護しようのない猟奇殺人を何十件も何百件も繰り返し続けた。誰か個人の敵じゃない。俺達の世界の敵だよ」


「……そうか」


 そんな物騒な話を聞いて、自然と安堵した。

 少年はおそらく嘘は言っていない。

 本当にそういう誰かを殺す為にこの世界に来ているのだろう。


 そして簡潔ながらもターゲットの概要を聞いた事で……そのターゲットがレイアでは無い事が確定的に思えて。

 だったら本当にタイミングが合致しただけの偶然で、レイアの件はまたしても別件だ。


「一応お前の話、信じるよ……悪いな、怒鳴り散らして」


「いや、それはいい。怒鳴って当然だろ。俺だって立場が逆ならそうしてる……でもよく俺の言ってる事を信用したな。本当は俺の言ってる事が全部嘘っぱちで、本当はお前の仲間を狙っている犯人かもしれねえってのに」


「……そうだな。だから完全に警戒を解くなんて事はできない。俺個人としては嘘は言っていないんじゃないかって思ってるけどあくまで主観だ。俺は別に人を見る目がある訳じゃねえし」


「なら最低限の警戒は保っとけ。これからまだ俺にその子の相談をするつもりなら、ちゃんと話しても大丈夫な話だけをするようにしろ。俺はその子の敵かもしれないからな」


(それ言える時点で絶対理不尽に人を殺すような奴じゃないだろ)


 記憶を失う前のレイアは理不尽にこんな目にあっているという風な事を言っていたけど、この少年はまずそんな理不尽な事はしないだろう。

 話せば話す程に、そういう考えは強くなる。

 そしてきっと悪人ではない筈の少年は八尋に言う。


「しっかし……俺が誰かを殺しに来た事については不快に思わないんだな」


「まあある程度そういう事に理解のある仕事をやってるからな」


「というと? どういう仕事してんだ?」


「頼まれれば悪い事以外なんでもやる便利屋だ。ついさっきも誘拐された子供を仲間と助けに行ってた所だ」


「へーすっげえ。ヒーローじゃん」


「……まあ八割方さっきから話に出てる仲間がやったんだけどな……でも、勘違いすんな」


 ここで話を区切ってしまえば、一つ誤解を与える事になるので付け加えておく。


「俺もアイツもそういうやむを得ない行為に理解があるだけだ。俺達は殺しまではやってない。アイツがそんな事をしたがらないからな」


 仕事とはいえ。

 悪人と戦ってやむ終えない場合の事を理解しているとはいえ、まるでレイアが敵を殺しているなんて風に伝わる事はしたくなかった。


「なるほど、その子は強くて優しい訳だ。凄いな」


「ああ、凄いんだアイツは」


 それから自然とレイアの話をした。

 当初の目的通り少年がレイアについて、レイアが巻き込まれている事件について知らないかを調べる為に。

 出会った日の事からこれまでの事を簡潔に。

 その後運ばれてきた料理を食しながら段々と厄介なファンのように熱を込めながら話した。


 そして相槌を打ちながら聞いてくれた少年は改めて言う。


「本当に凄いなそのレイアって子は……俺が追っている女とは大違いだ」


 そう言った上で、申し訳なさそうに少年は言う。


「今の情報だけじゃ俺には何も分からねえ。折角飯奢ってもらってるのに悪いけど」


「いや、いい。駄目で元々だ。気にすんなよ」


 そう言った上で、八尋は言う。


「それより……よかったら俺達でお前を手伝おうか?」


「手伝う……っていうと、あの女を殺す手伝いか?」


「ああ……まあ殺すなんて事は俺達にはできないけど。アイツは困っている人が居たらほっとけないからさ。何百件も殺人事件を起こしている奴なんて許せないだろうし、そんな奴がこの世界に来ているなら止めようって思う筈だ。当然そうなったら俺も協力する」


 おそらくこの場にレイアが居たら提案したであろう事を八尋が提案するが、少年は首を振る。


「ありがとな。でも今回は遠慮する」


「なんでだよ」


「俺は悪い奴と戦う過程であの女を殺すんじゃない。明確な意思の元にあの女を殺しに行くんだ。いくら俺達の世界の司法で死刑判決が出ている相手とはいえ、どんな相手も殺さないように戦ってきたような奴を、そんな事に関わらせる訳にはいかない」


 それに、と少年は言う。


「多分その子は俺とは会わない方が良い。今日の事だって伝えない方が言いと思う」


「なんでだよ」


「……聞いている感じ、その子にとって今の生活が結構充実しているように思えてさ。だったら別の世界の存在を知ったり、その世界の人間と接触する事がトリガーになって記憶が戻ってくる事もあるかもしれない。それは一概に良いとは言えないだろ」


「……それをレイアが望むかどうかって話か」


「ああ。記憶無くして歩んだ人生は言わば新しい人生だ。だけど戻ってくればどんな記憶であれ何かしら大きな変化はあるだろ。その変化を今の人生を歩んでいるレイアさんが望むかどうかは、本人じゃないと分からない。そうだろ?」


「……ああ」


 おそらくレイアも自分を半殺しにした一件が未解決な事自体は、解消すべき問題だと認識しているとは思うし、実際何度かそういう話もしている。

 だが二年間一緒に居て記憶を取り戻したいと取れるような話はしていないように思える。


 それどころか八尋から話を聞いただけの少年がそう思った通り、八尋から見てもとても充実した日々を送っているように思えるのだ。


「ちょっと考えが軽率だったか……ありがとな、止めてくれて」


「……ただまあ、手の平返すようで悪いけど、そう思うのもあくまで俺達の主観の話だ。実際どう思うかなんてのはレイアさんしか知り得ない訳で」


「えぇ……いや、まあ確かにそうか。でもだったらどうすりゃ良いと思う?」


「そうだな……」


 少年は少し考えるように間を空けてから言う。


「さっきお前が俺に写真を見せようとしていた機械。あれ多分通信端末だろ」


「ん? ああ、そうだけど……」


「だったら連絡先だけ教えてくれ。そしたらどっかのタイミングで連絡入れるから、それまでにそれとなく聞いてくれればいい。記憶を取り戻したいのか否か。諸々の事はその返答次第だ」


「了解……ありがとな、なんか色々考えてくれて」


「なに、困った時はお互い様だ。飯も奢って貰ってるしな…………なあ、このデザートも頼んで良いか? 写真見る感じだと、滅茶苦茶うまそうなんだけど……どうかな?」


「どうぞどうぞ……ってそうだ」


 今更ながら、一つ大事な事を聞いていなかった事を思い出した。


「そういや自己紹介がまだだったな。俺は志条八尋。お前は?」


「ユーリだ。ユーリ・ランベル。よろしくな……っても、飯食ったら別れんだけどさ」


「早速本腰入れて動くのか」


「遊びに来たわけじゃないからな……というか本当はもう終わっててもおかしくねえんだよ。あの女の近くに転移地点を合わせた筈なのに、多分全然違う所に来てるだろこれ。そんな訳で早急に探すところからスタートだ。見付けて片付受けて……できれば色々楽になってからそっちの件と関わりてえな」


「死ぬなよ?」


「……ああ、大丈夫。こうして色々約束したばかりに死ねるか……あ、ちょっと待って水水。なんか喉詰まっ……うぐ……ッ!?」


「お、おい早速死にそうになってるじゃねえかよ大丈夫か!?」


 辛うじて大丈夫だった。ちょっと危なかった。

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