3 彼女の意思を尊重した戦い方

「え、八尋一人で行くのか?」


「流石にこの子を連れ回す訳にはいかねえだろ。一刻も早く家に帰してやらねえと。だから烏丸さんのお使いは俺一人で十分」


 魔術結社のアジトを後にした八尋とレイアはそんな会話を交わす。

 二人がこの国にやってきた目的は二つ。


 一つ目は誘拐された女の子の救助。これがメイン。

 そして二つ目は以前烏丸が助けた依頼人の様子を烏丸の代わりに見に行くという物だった。


 当初は女の子の救出後、そのまま烏丸のお使いをこなして帰国と考えていたのだが、いざ被害者を助け出してみるとお使いなんかに連れ回すわけにはいかないと思った次第だ。


「いやまあ確かにそうだが……それなら八尋がその子と先に帰国したらどうだ? 外国だし危険が一杯だし……なんかその子八尋にべったりだし」


 救出した少女は八尋にべったりといった様子で、離れたくなさそうな雰囲気を醸し出している。それだけ自分に信頼を置いてくれているのは嬉しい限りだが、それでも。


「まだこの子の安全が確定した訳じゃ無いからな……だから頼むわ」


 自分達はあくまで敵の本拠地にカチこんで制圧し少女を奪還だけで、連中を殺害した訳でもなければ現地警察に突き出した訳でもない。

 あくまで取り戻しただけだ。まだ安全じゃない。

 だから日本まではレイアにあの子を守ってもらうのがベストな選択だ。


「……分かった。でも何かあったら遠慮なく連絡をくれ。飛んでくるからな」


「ああ、分かった。お前こそ何かあったら言えよ。飛んでいくから」


「了解だ」


 多分レイアは本当に飛んでくるし、自分はすぐには向かえないけれど、そんなやり取りを交わして、それから助けた少女ともお別れの挨拶をしてから二人と別れた。


「これでうまく回っているなら……これでいいよな」


 自分達の戦い方は、こういう荒事のセオリーからはきっと外れている。

 それでも自分達が出て来るだけで次は烏丸信二が出てくる事という事が伝わるから。

 自分達の勝利は強力な執行猶予を敵に与えるような物になるから、それで今まで全ての敵が止まってきた。

 それだけ烏丸信二は敵に回したくないのだろう。

 だからこれで丸く収まっている訳だし、これまでも今も、これからもこれでいい。


 本当は自分達の手で綺麗に終わらせるのが、こういう仕事としては正解なのだろうけど。


 それでもレイアがそういう事を好まないのは八尋も烏丸も知っているから、その辺は尊重しいていきたい。

 これまでも、これからも。

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