悪魔の契約ゲーム ~7が出たら……死~

佐倉じゅうがつ

運命のサイコロ

 今日の学校もサイアクだった。僕はだれとも話さなかったけど、だれかが僕の話をしていたのはイヤってほどわかる。色のない世界。誰もいない家。

 ひとりのクラスメイトの顔を思いうかべながら、心の中にたまった泥水をぶちまけた。


「あんなやつ死んでしまえばいいのに」


 プツンという音を連れて、部屋の電気が消えた。すぐ元にもどったものの、視界の一部が影をさしたままだった。


「殺してほしいカ?」


 空気を鈍くふるわせて声を発した「それ」は、光沢すら存在しないぶきみな黒。人の形をしたなにか。


「我とゲームをシないか? お前が勝ったら望む者を殺しテやる。負けたらお前を食らう。これは悪魔の契約ダ」


 悪魔だって?

 はは、上等。こいつを使えば完全犯罪、いや犯罪ですらない。僕のクソみたいな命をかけるだけでいいのか。まさにお買い得じゃんか。

 ぶちまけた泥水がとんだオアシスになったものだ。


「いいよ、やろう」






 それから僕と悪魔はずっとサイコロを振りつづけている。


 最初の違和感はルール説明のときだった。交互にサイコロを振り、「7」を出したプレイヤーの負け。悪魔は「いわゆるアンラッキー7ダ」と皮肉ぶって語っていた。でもサイコロはひとつしかない。どこにでもある六面体のサイコロだ。


「フム、6か。あと1で我の負けだっタな。キキキ! あぶないあブない」


 当たり前のことをいうと、サイコロの目は6まで。7なんて出ようがなかった。


「これいつまで続けるの?」

「モチロン7が出るまでだ。トイレ以外の遅延行為ハ敗北とする」


 まじかよ。もう夜が明ける。おかげで一睡もできてない。



 まさか。

 悪魔は最初から寝落ちを狙っていたのかもしれない。寝たら遅延行為、すなわち敗北。永遠に終わらないゲーム、人間にはいつか限界が来る。


 もしかして、僕は死ぬ? こんなくだらないことで?



 イヤだ!

 手段は選んでいられない。僕はトイレに向かった。予定確認用のホワイトボード、付属の油性ペン。これだ。


「もどったカ。お前の番ダゾ」


 無視しつつ油性ペンでサイコロをちょんちょん……とつつく。すべての面の「点」を7つにしてやった。


「おらぁっ!」


 サイコロを投げた。


「ナ、なニいイイイィぃぃぃぃィィ!?」


「7が出た。僕の勝ちだ! そしてお前、お前の死を望む! しょうもないことで徹夜させて、ぜったいに許さないぞ!」


 窓から朝日の光がさしこみ悪魔を照らす。逃げていくように影が消えていった。


「ど、どウヤら悪魔の営業時間はおわりのヨウだ。続きはまた次回。また会おうぞ、キーッキッキッキ!」





 悪魔とのゲームは終わった。

 でも、僕の学校生活がよくなったわけじゃない。ただ変な苦労をさせられただけ。本当に最悪な体験だった。


 数日後、あらためて心の泥水を吐きだした。


「あいつほんとうに死んでくれないかな」

「殺してほしいカ? キキキ、モういちどゲームをしようじゃないか。今度は「7」以外が出たら負けダ。勝ったらお前の望む者をふたり殺してやる」



 僕はすこし考えた。


「わかった、やろう。ただし、そっちが先にサイコロを振れ。あとサイコロは新品を使う、いいね?」

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悪魔の契約ゲーム ~7が出たら……死~ 佐倉じゅうがつ @JugatsuSakura

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