03 その体の秘密を教えてくれ



「ありがとよ、兄ちゃん! 楽しかったぜ! 教えてもらった筋トレ? だっけか。しらんがやってみることにする!」


「あぁ、筋トレは最高の自分磨きだ。分からんことがあったらなんでも聞いてくれ!」


「あぁ! じゃあな!」


 良い人たちもいるもんだ。異世界。馴染んできたんじゃないか?

 通貨の名前は【ウォル】と言うらしい。男四人であれだけ飲み食いして、3000ウォル。

 体感としては6千円くらいの感覚だったから、半値だと思えばいいか。まぁ全部が全部そうじゃないだろうが。


 それに色々と聞いた。まぁ、今は必要のない知識ばかりだが、異世界は何があるか分からんからな。

 

「じゃあ、宿だな。どうするか……」


 今のオレは一文無し。あるのは筋肉と100MPだけ。

 日雇いの仕事なんかはあるのだろうか。が、日が暮れてきたからな……明日からになるか。


「おっと」


 ぶつぶつと考えていると肩にぶつかってきた奴がいた。酔っぱらいだ。

 飯屋を案内してもらった時に気付いていたが、ここは飯屋街らしく、いろんな飲み屋やらなんやらと立ち並んでる。


「あぁ〜? てめぇ、どこ見て歩いてんだぁ、こらぁ!!」


 異世界というのは治安が悪いらしい。顔真っ赤にしてまぁ。

 岡山は道路周りに飛び出さない限り治安はいいからな。いや、そんなことはないか。


「そう思うと、岡山で飲酒運転とは会ったことがないな。いや待てよ、危険運転をしてる奴らはもしかしたら全員そうなのかも……」


「何言ってんのかわかんねぇよ!!」

 

 ガスッ。

 もちろん、俺は殴られた訳だ。それも胸をな。

 が、悪いな。

 

「オイオイ、そこはディップスで鍛え上げた大胸筋下部だぞ?」


「なっ」


 一撃を食らう訳がないだろ。そこは、丁寧に鍛え上げた筋肉なのだ。

 

「くっ、なんだよオマエ!!」


「そこは大胸筋上部と、肩のフロントだな。うぅ〜ん、いいところだ」


「こいつ──ッ!!」


「おいおい、筋肉痛の広背筋下部はやめてくれ。ネガティブでビシビシと痛めつけた後なんだ」


「オラッ!」


「そこは、ふくらはぎだ。第二の心臓だな。上の心臓が無理だから、下の心臓か。素晴らしい狙いだ」


 そうして、仲良く遊んでいた訳なんだが、もう一発をお見舞いしてきたやつの腕を掴み上げた奴がいた。


「そこまでにしろ」


 それは、女性……らしい。

 オレは、その体を見て目を大きく見開いた。


「なんっ、邪魔するな……って、おまえ……騎士団の──」


 血相を変えたおじさんが、腕を払い逃げ出して行った。

 無言のまま制圧したその女性は、オレの方もちらと見て飲み屋街に消えていこうとして、思わずその手を握った。


「オイ。その体、本当にナチュラルか?」


「……へ?」


「オマエの体はおかしい。なんだその体は。どうやって鍛えた。好きな種目はなんだ」


 質問をしても答えず、陰鬱な顔の横に「?」を浮かべている。


 女性は筋肉がつきにくい。

 これは筋トレをある程度している奴なら知っている常識だ。

 筋肉がつきやすいと言われている男だって、たくさん努力をしても中々つかないのだ。

 

 だからこそ男女問わず「ムキムキになりたくない」っていう奴は押しなべて苦手だった。

 なれないから、安心しろ、と言ってやりたい。

 なんなら言ったこともある。まじで。怒られたけど。


 だが、目の前にいるこの女性は……オレよりもデカイ。


 白銀の長髪で、血色の良い小麦肌。ベレー帽のような被り物をしている。懐かしいな。オレの知り合いにもずっとニット帽をかぶってるハーフがいたもんだ。

 絵本のカッコいい女性をそのまま出してきたような出で立ち。が、鋭かったであろう目つきは疲れ切ったように下がっている。なにかあったに違いない。ベンチプレスのやりすぎて肩を痛めて、他の種目をやるのが面倒になった口だろう? 相談に乗るぞ。

 なにより体がデカイ。全体的にデカイ。


「ここらにいるってことは、腹が減ってんだろ? 話を聞こうじゃないか」


「え、うん……え?」


 これは、カウンセリングをしなければ、だな。

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