That

まれ

 私はあの日、大切な大切な自分の命と同じくらい大切な相棒を失くした。

 この生として生まれ、家族からもらい、ずっと一緒にいた。

 少しの汚れでもかなり目立つほど、白くてふわふわで。

 そして、長く特徴的な耳に赤い目とまんまるな尻尾。

 その子がいないと夜も眠れないほどで、親友で。

 とにかく大切な相棒を。




 原因は明白。

 一度、街で男の人とぶつかったときに落としたんだと思う。

 あのときの私は少しというかかなり落ち込んでいて普通じゃなかった。

 下ばかり見ててちゃんと前を見ていなかったし、落としたことに気づかないほどに。



 一つは恋人である星羅せいらくんとの喧嘩。

 私と星羅くんは二人揃って同じ大学に進学した。

 そして、卒研でお互い協力していたんだけど、星羅くんの方がうまくいってなくて、星羅くんが焦りからピリピリし出して。

 そんなときに私の卒研手伝ってほしいと頼んだらいきなり「お前はうまくいってていいよな!研究の悩みなんてないんだろ?」って。

 失踪しちゃって。



 もう一つは、私ももう大学四年だから就活をしてて、受けてたところ全部落ちてた。

 昔から憧れてた会社だったり、研究所だったりしたんだけど全部ダメだった。

 頑張って大学入って、いっぱい勉強して研究していろいろ精一杯やってきたのに、それで他は?って。そんな簡単に私の一番の魅力をいなさないでよ。

 私って社会から見たら、いらない価値のない人間なのかな?

 もう嫌。



 そんなときに追い打ちをかけたのが相棒を落としたこと。

 静かに私の話を聞いてもらえるのは相棒くらいで。

 こんな歳になっても私はずっと相棒を毎日どこへ行くにも抱いていた。

 周りの人から変な目で見られることもあった。

 見られる度に星羅くんが「気にすんな」って言ってくれてた。

 でも、もう彼もいない。私は失ったのだ。何もかも。

 大切な相棒も、今度は離さないと決めた新しい相棒も、恋人も、自信も、価値も。

 全部。全部。

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