7回裏の攻撃、満塁ツーアウトツーストライク。

せにな

入ればラッキー7

「打てよ打てよホームラン」


 観客席からの応援歌に俺の手には力が増す。

 7回裏の攻撃、3つのベースには3人の走者。だがワンボールツーストライク、ツーアウト。そして点差は7対8という絶望的状況。

 ここでヒットを打ち、三塁ランナーがホームへと帰れば同点。ツーベースヒットならば追い越せる。

 だが俺は応援歌と同じ、ホームランを狙う。自慢ではないが、俺は全国の中学の中では一番ホームランを打っている男だ。そんな男がここでツーベースヒットだけで終わると思うか?


「いや終わらないね!」


 バットを構えたまま小さくつぶやく。

 ピッチャーからはここで決める、という圧を放ちながら足を上げ、大きくふった腕からは豪速球が飛んでくる。

 完璧のタイミング、そして最大限の力、最高のバットの当たり位置。すべてが完璧のスイング。


「もらったぁ!!」


 思わず俺はホームベースで立ち止まり、拳を天につき上げて叫んでしまう。

 観客も確信したようで黄色い声援や拍手やらが飛び回る。

 ピッチャーは膝から崩れ、相手ベンチでは頭を抱えている選手と監督。走者たちもボールを眺めるばかりで走ることはない。

 それほど完璧なボールが観客席へと飛んでいく、がその時。


「か、風つよ……目が開かねぇ」


 台風と同等、いやそれ以上の風が球場を襲う。

 薄く目を開いた俺は飛んでいたボールを目で追うが、なにかボールの様子がおかしい。

 見るに速度が落ちていき、高さもどんどん落ちていってしまう。

 ホームランになるかならないかのギリギリの放物線を描きながら飛んでいくボール。

 追い風のおかげで目が開けられるセンターの男は空にグローブを構える。そしてその瞬間、


「「「しゃー!!」」」


 男たちの遠吠えが球場に響き渡る。

 相手のピッチャーもキャッチャーもベンチの人たちものすべての人達が勝ったかのような喜びの声を上げる。


「うそだろ……」


 ピッチャーに変わって次は俺が膝から崩れてしまう。

 ホームラン確定かと思ったボールは風の影響によって軌道を変え、観客席前で落ちてしまった。


「なにがラッキー7だ!俺は風のせいでアンラッキー7だよ!!」


 悔しみの叫びを上げ、地面を強く叩く。

 8、9回は俺たちの繊維が喪失されてしまい、チャンスが訪れることがなかった。

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7回裏の攻撃、満塁ツーアウトツーストライク。 せにな @senina

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