色々ルビ振る物語

司弐紘

1.

 とある平凡な高校の放課後。金下なるみに、空き教室に呼び出された藤枝恭平はそれを無視しなかったことを後々まで後悔したという。

 なぜなら、


「学校七不思議をでっち上げなければならないわ!」


 事後従犯であるべきと勧誘されたからだ。


 金下なるみは、確かに美少女ではあったが勢いが余り過ぎていたからだ。黙って立っていても髪がいつだって髪を靡かせているようなイメージがついて回る余らせようだからだ。


 そして髪をまとめるリボンはチェッカーフッラグ柄。自覚はあるのかも知れない。


「何でや? そういうのは自然に湧いてくるもんやろ」

「これはビジネス……じゃあおかしいわね。パブリック怪談。何しろプリティ・チキンからの依頼だからね」

「プリティ・チキン?」


 恭平は、最近になって転校してきたために、なるみの恐ろしさを知らなかったために、見事に生け贄として差し出された。

 シュッとしたイケメンで、180を超える長身。


 関西弁を使うのもギャップ萌えになる可能性があるのに、すでに校内では「可哀想な目」で見られている被害者ぶり。

 ちなみに恭平の言葉は関西弁の中でも「河内弁ハイ・エンシェント」である。


「それ」

「それってなんや? 会話が繋がってへん――」

「だから、河内弁にハイ・エンシェントってルビ振る感じよ」

「どこで会話繋げとんねん! あれは地の文やぞ! メタで暴れるなや!」


 こうして“絢爛豪華に間違いを修正ツッコミ”属性であったことも、恭平が生け贄に選ばれた理由になるだろう。


「それはともかく、簡単に言うと川井会長から頼まれたのよ。学祭のイベント用に七不思議――これにもルビが必要ね」

「そんな訳あるかい……って、生徒会長に? ああ、川井から可愛いでプリティ。で、会長が怪鳥でチキン。って、洒落かい! それも全然上手くともなんともない!」

「“ナンバリング・テラー”とか、どうかしら?」

「聞けやー!!」


 こうして、地域的宿痾ローカライズ・デスティニーによって、再びなるみに巻き込まれてしまった恭平。

 どうにかこうにか、なるみから事の経緯を聞き出してみると、何ら特徴の無いこの学校にウリをつけたいという川井の“切なる願いフーリング・ホープ”があることが判明する。


 事は学祭だけに留まらず、入学希望者の増加も目論んでいるとのことで、とにかく派手目にして欲しいという要望もあったらしい。


「怪談を派手に……最初ハナから間違っとるなぁ」

「そこで私は怪談にルビを振ることを思いついたのよ。どっちにしても“でっち上げフレーム・アップ”するんだし」

「コイツを実行委員長にした段階で間違まちごうとるうんやな」


 教室の中央で、風に吹かれたようにカンラカンラと大口を開けて、笑いながら説明するなるみ。

 実行委員ということで、一応なるみに付き合う理由だけは整っている恭平は、椅子に斜めに座ってこの事態を諦める理由を探し続けていた。


 そこに、なるみが宣言する。


「安心して!」

「何がや? 脅迫で捕まりパクられたいんか?」

「六つはもう、見つけてるの!」

「それは話が早い」


 身を乗り出す恭平に、なるみは妄言を丸めて叩きつけて来た。


「マリオネット・トラベリング・1、ロスト・ワンダリング・2、キャント・カウント・3、クライング・アマデウス・4、サラウンド・ホール・5、サインポール・ルーム・6」「待てや」


 恭平のツッコミのタイミングがあまりにも遅すぎた。恭平はこめかみをマッサージしながら、なるみに告げる。


「……それはあれやな。ルビだけ言うとるな。わけわからんから、とりあえず、適当な紙に書けや」

「ええ~?」

「頑張れや現代人。ルビうんやから、振られる元があるんやろ? それも書け」


 恭平は自分のノートを広げて、なるみに強制する。

 なるみはそれを受けて、渋々と要望通りに文字起こしを始めた。

 見事な金釘流で、期待を裏切らない残念振りであることはいうまでもないだろう。


 それによって判明する元ネタとは――


「ええと……

 『疾走する人体模型』

 『徘徊する振られ男の幽霊』

 『三以上が数えられない階段』

 『説教するモーツァルトの肖像画』

 『夜通し行われる球技大会』

 『財布を落とすトイレ』

 ……これルビ振らなくても十分派手な気がするんやけど」

「でっち上げ、頑張りました!」

「努力の方向音痴や……」


 目を伏せる恭平。そしてどうでも良い部分を確認する。


「いちいち、ワンだのツーだの数字がついてるのは七不思議にするためやな。この順番の理由は?」

「ルビにしたときに、語呂が良い順番」

「お前に理由を求めた俺が間違いやった」


 潔く諦めた恭平。

 何しろ、最大の問題がナンバリングで浮き彫りにされているのだから。


「で、七つ目をでっち上げるのを手伝えと」

「ノンノン」


 再び立ち上がったなるみが人差し指を揺らしながら、ドヤ顔で微笑む。


「“でっち上げフレーム・アップ”よ!」

「どっちでもええわー!! それにそもそも、それじゃわからへんやろ!?」


 恭平の絶叫がこだました。

 だがこうして、なるみと恭平は学校中を駆けずり回ることになったことに、ご理解いただけたと思う。


 つまりは残念美少女に、ツッコミながら引き釣り回される可哀想なイケメンという風景の完成だ。

 当然、恭平は七不思議の一つ「“気の毒な生け贄アンラッキー7」に数えられることになる。


「――って、俺がお題かい!!」

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