第43話 2029年の出会い

 僕が仕事としてガワを作る前。誰かのために作ったモデルは3体。

 モデル自体を公開したのは数十体はいるだろうけど……

 そして1体目を作ることになった出来事を僕は一生忘れることはないだろう。






「ぜんぜんいいねが付かない……」


 あの頃の僕……

 学校に行かなくなって2年。

 ネットやSNSでの巡回にも飽きが来ていた。

 お気に入りのVTuberも配信頻度が減っていたこともあって、ただでさえ時間を持て余しているのにただ寝て起きてぼけっと1日を過ごすだけの日々に何か刺激が欲しかったんだろう。


 小学校から中学までずっとのめり込んでいたイラストの延長で3Dモデルに興味を持ったんだ。

 むしろ動機としては推しVのアバターを作ってあげたい、という今考えればくだらない動機だけど、目標を明確にした分、モチベーションが下がりにくかったのが功を奏したと思う。

 何より自分の先のことを考えることが怖くて仕方なかった。

 何かに夢中になって気を紛らわせていたかった。


 AIの進化と僕がそれを比較的すんなり受け入れられたこともあり、1人目のモデルの完成までこぎつけることができたんだ。


 でも、もともとSNSで人とのコミュニケーションなんて取るようなタイプじゃない。

 完成した後に気が付いたことだけど、そんな人気もセンスもないようなやつが作ったアバターを人気Vが付けてくれるわけもない。


 そんな当たり前のことに気が付くのにとても時間がかかったんだ。


 気が付いた後はいくつもモデルをアップして、ガワ師としての自分を認知してもらうことに躍起になった。

 でも結果は……


「AI.Ver184の仕組みを取り入れてるんだからこっちのほうがもっとヌルヌル動くんだって!! 不気味の谷なんてとうに飛び越えてるんだよ!! 衣装だって数万パターンある!! コスパ考えられないのかよ!! こんなに……こんなに可愛く笑うんだぞ……」


 反応のない日々に僕のフラストレーションがたまりにたまっていた。

 自分は誰にも必要とされない人間だと言われているようで、無意味に抗いたくなる衝動ばかりだった。


 一通り叫んでは不貞寝。

 翌日の夜中に起きてまた新たにモデルを作り始める。


 感情の起伏が生まれる分、時間を持て余した頃よりはマシだったのだろうけど……

 そして何よりも、僕が人にアタリ散らせるほどの度胸がないことも幸いだったと言えるだろう。


「ん~今回は……AI.Ver184は止めよう。184と違って人気もないけど僕の好みに合ってるAI.Typeαを自分向けにもっといじって……うんTypeβ……名前が安直だけどそこは本題じゃないし……もっと僕の個性を出して……Ver184は正統派だけどみんなが作ってきたものと一緒だ……イラストは……3日くらいで描ききれるかなぁ……それに自分でカスタマイズしたβなら核に自己進化を組み込めるから……」


 没頭できているうちは先々の不安も忘れることができる。

 また空っぽの日々に戻ることが怖い。

 推しVにアバターをプレゼントという目標がなくなった僕が、辞めずに続けることができたのはこのせいもあったと思う。


 コンセプトを決めると作業に取り掛かる。

 食事トイレ風呂睡眠。

 これ以外の時間を全てモデル作成に費やしていった。


「Typeβとモデルの一発目が完成だ……! 今回は……えっ!?」


 モデル作りに夢中で気が付いていなかった。

 僕がアップしたモデルにコメントを残してくれた人がいたのだ。

 相手のコメント名は『カヨ』。

 それは僕が拘った部分を見事に掬い上げてくれるコメントで、僕は思わず新作のアップも忘れ、カヨにDMを飛ばしたんだ。

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