第41話 17時27分 核心

 犯罪者プレイヤーは全部で12名。

 僕が婦警と白スーツ。

 ガレットは侍

 そして、獣耳少女の梨藤フランが狼を殺した。

 特殊部隊は会敵の際に梨藤フランを含む3名を殺したと言っていた。

 ロリパンダが特殊部隊を殺した。


 結果……残り4名。これで全員だ。

 だから……


「こそこそ隠れてたツケが回ってきただけだろ?」


「はぁ~? 懲役チャラにしても死んだら意味ないんだからさ~危険を冒すなら最後に決まってんでしょ? 武器も使い捨てになんだからさぁ~」


 声の抑揚だけでどんな人物か想像できる。

 この状況でどうしてここまで不敵な態度が取れるのか。口角を吊り上げていることが見えなくても伝わってくる。


「それで時間ぎりぎりに焦って飛び出してきたわけだ? その計画性の無さでそんな態度ができるのは何も考えていないからなんだろうね」


「フハッ……アハハハハッ!! 何あんた。ウケるんだけどっ! ロクに金を投げてもらえないあんたたちと一緒にしないでくれる?」


 僕の言葉に腹を抱えているであろう笑い声。

 蔑みを隠さないこの態度は、塀の外でもそれだけ自由な生活をしてきたという証だろう。


「あんたたちと違ってさ~私みたいに魅力があればお金なんていっくらでも貢いでもらえるわけ~。だから探知機買って~バカたちが減るのを待ってたに決まってんじゃん? は~~――……まじウケるんだけど~!」


 こいつ――

 探知機って1000万だぞ!?

 2000万以上も投げられてるってことかよ……!!

 ダメだ……落ち着け……落ち着け……!!


「あれ~黙っちゃった~? 私と違って自分がどれだけ惨めに――」


「よくいるよね。同じ立場なのに『自分は上だ。自分は上だ』って必死で言い聞かせてる人……逆にそれだけ魅力があってこのゲームをするハメになるって……どれだけ生き方が下手くそなのか、逆に興味が湧いたよ」


 僕は跳ね上がった鼓動を悟られないよう必死で強い言葉を選ぶ。

 武器では恐らく優位に立てることはない。

 せめて少しでも動揺を誘えなければ活路が見出すことができない――

 そう僕は自覚していた。


「はぁ!? ボケが! 私はバカな妹に足を引っ張られただけだっつの!! あ~……まじうぜえわ……思い出したらイライラしてきたぁ~ッ!!」


 僕の鼓動がさらに駆け足で胸を叩き始め、唾液を飲み込む喉の音がやけに耳に響いた。

 こいつ……は……


「必死すぎじゃない? しかも自分からプライベートな情報出してくるとか。下手くそな生き方の一端を見せてもらって参考になるなぁ……サキュバス……いや、カナッペって呼ばれるほうがいいの? いやー成人後の愛称でこれは痛い……」


「――はぁ!? てめえ私の薄型情報端末カード拾ったのかよ……! あ~まぁ告発の材料なんてないだろうし……どうせ私の画像見ておっ立ててたんだろ? あ~やけに絡むと思ったけど……」


 だ……

 この状況まで自分がたどり着けたこと、そして一緒に戦ってくれたガレットへ感謝の気持ちを浮かべた後、僕はここで全てを出し切ることを決意した。


「いや――露骨な媚びとか痛いだけでしょ? 妹に差を付けられてそんなに悔しかったんだ?」


「……差? 何言ってんのあんた。私の薄型情報端末カードの中見たんだろ? それで何をどうしたらあいつの下に私がくると思うわけ……?」


 先ほどまでの軽口にはない重み。

 自覚していないなら、最初のように笑い飛ばせばいい。

 なのにそれをしない――いや、できないんだ。

 姉としてのチンケなプライドが邪魔をして……


 だから後は……


 こいつの核心に踏み込むだけだ。

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