第30話 13時42分 決裂
「顔を知ってる程度で共犯者……? いくら僕でもそんな誘いには乗らない」
「私は……クリアしてルネ姉の元へ……でも1人じゃ厳しい……これはゲームだけどFPSとは違う……」
この子が本当にガレットならたしかにこの気持ちは本物だろう。
SNSでルネ姉に誹謗中傷をしたやつに、口調を激変させ嚙みついていたのは知っているから。
でも……ルネ姉の元へ行きたいならクリアする必要すらないけどね……
それを教える必要はないだろう。本音かどうかはともかく、知らないほうが幸せということだってあるんだ。
それにこの子は今
僕の時の婦警のようなパターンも考えられるけど、配信アーカイブを見る手段がない以上、もう手遅れだ。
僕が言えた義理ではないが、やはり信用できるわけがない。
だが、一つ言えることは、こいつは僕の目的の相手ではない。
「悪いけど無理だ。共犯者は弱みを握り合うような薄氷の関係、もしくは一方的に弱みを握った側が相手を服従させることでしか成り立ってるものを見たことがない。でも……きみを積極的に狙うつもりはないから僕は行くよ……お互い狙う意思がないならこれでもある程度、共犯者のようなメリットはあるだろ」
我ながらバカみたいだ。
黙って立ち去れば少なくとも返答を待ってる間は、背後を注意する必要がなかったのに。
返事を待つことなく、壁に背を擦り付け扉にハンドガンを向けながら通路を後退っていく。
僕は時間を掛けて通路を戻りきる。
その間、あの子は顔を覗かせることもなく、ただ静寂だけが通路を支配していた。
僕はまたもフィットネスジム付近に戻ってくることになった。
左手側がダンスなども行える広めのスタジオ。
右手側は白スーツとやり合ったトレーニング器具のある部屋だ。
マッサージルームに向かう前にも確認したが、何があるか分からない。
僕は一目で確認できるスタジオの扉に近づいた時、スタジオ内のガラスが一瞬、人影を映したことを見逃さなかった。
鏡越しでもアバターの姿で見えることに少々驚いたが、考えてみればそれで素顔がバレる程度の浅い仕組みでも困る。
灰色の毛並みの狼アバターだ。
扉側の壁を這うように扉付近に移動すると、相手も僕を認識していたのか扉周辺に向かって数発の弾丸が撃ち込まれる。
咄嗟に頭を抱えてうつ伏せに飛び込んだ時、僕の目の前に転がってきたのは、手榴弾だった。
――やばいッ!! 間に合ってくれェーー!!
すぐさま起き上がり通路の端へ横っ飛びし、ダンゴ虫のように身を丸めた。
その数秒後に起こった爆発。
熱風と少々の破片を浴びるに留まったことは幸いだ。
僕は立ち上がることすらせず、すぐさま壁に背を預け、爆風で傷ついたスタジオの入口へハンドガンを向けた。
だが――
「銃をそのまま落として、腕を振る
僕から見て右手側の通路の先、トレーニングジム側から獣耳の美少女アバターが僕に向かってハンドガンを構えていた。
獣耳は肩で呼吸をしているようで、明らかに冷静ではない。
この状況に慣れてしまってきた自分だが、普通の人はあれが正しいと僕も思う。
事実、僕だって今朝までは震えてばかりだったのだから。
しかし、逆に言えばわずかな反応で引き金を引かれることも意味している。
喉の水分が一気に蒸発したような感覚。
なんとか生き残る道を……
僕は握っていたハンドガンをそのまま放し、床に落とすと相手を刺激しないよう慎重に両手を上げた。
するとスタジオの入口から狼が顔を覗かせる。
「ひゅ~! あっぶね~……肉奴隷ゲットしといて助かったわ~……! よくやったな~ケモ耳」
飄々とした口調と共に僕の前に姿を現した狼はハンドガンを僕に向ける。
さらには、共犯者と思われる獣耳少女に対しても嘲弄を欠かすことなく、その顔に醜く歪んだ笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます