第24話 24時07分 反応

 個人配信を終えて数時間が経った。

 だが、僕が期待していた反応は一切ない……

 いや、正確に言えば1件だけ。


 差出人は『ボマー@爆殺王11連中』

 投げ銭額は50円

 ただの愉快犯だ……ないよりはとかそういう次元じゃない。

 これは僕の取り分だけなので実際は100円を投げたのだろう。


 投げ銭は全員の配信終了後に雑談しながら投げるのが基本だ。

 他の犯罪者プレイヤーの配信は見ることはできないが、配信済かどうかは参加者一覧で確認できる。

 そしてすでに僕を含めた全員が配信を終えている。


 僕は無意識に腕に爪を立てたまま、ホログラムを見つめ続けている。

 時間は24時を回った。


 翌朝に配信がある以上、今日はすでにお開きになっている時間だ。

 後からアーカイブで確認する人がいないわけではないが、投げ銭をするような人はリアルタイムで視聴する人がほぼ全てと言ってもいい。


 冗談は止めてくれ……銃を持った相手にフォークで何ができるっていうんだよ……


 頭を搔きむしったその時。

 ホログラムが音を立てて点滅した。


 差出人は『黒すぐり』

 投げ銭額は200万円。


 これなら僕の取り分は100万もの大金になる!

 誰だ!? いや、誰でもいい!! ほんとに……ほんとに感謝したい!

 相手から見えることはないと分かってはいたが、僕はホログラムに向かって額を擦り付けていた。


 そしてホログラムをスライドさせ、武器の選択画面を表示する。

 100万ならハンドガンを手に入れることができる。

 

 遠距離武器は1個は持っておくべきだ。

 相手を傷つけさえしなければ牽制にも使うことができる。


 明日の配信でハンドガンで1人倒し……相手の武器を奪って……


「…………」


 僕に……撃てるのだろうか。

 ダメだダメだ……! 弱きになるな! 撃つしかないんだ!

 僕はまだ死ぬわけにはいかないんだ……

 そのためには……


「…………」


 そして結論からすれば僕はハンドガンを選ばなかった。

 代わりに選んだ武器は『フライパン』と『スリングショット』。


 相手を撃つという行為に怯んだことはたしかだ。

 でもそれ以上に身を守る盾となる物が欲しかった。


 相手を殺せば一番だが、どのような状況になるかは分からない。

 今日だってフライパンがあれば攻撃をもう少し防ぐことだってできたはずだ。

 臆病者は臆病者なりに戦わなければ生き残ることはできない。

 相手の攻撃をフライパンで防いで無傷であれば、倒した相手から武器を奪えばいいんだ……!


 自分の弱い心と必死に向き合った結果の選択が、正しいかどうかは明日にならなければ分からない。


 他の人はどの程度の金額を稼ぎ出したのだろうか。

 1000万以上なんて滅多に見かけない。

 いいところで500万だ。

 ショットガンやサブマシンガンが購入できることにはなるが、それ一丁で殺せる相手は1人。

 果たしてその状態でもショットガンやサブマシンガンを選ぶだろうか。

 それなら防弾チョッキとハンドガンとかそのような組み合わせを選ぶはずだ。

 それならなんとか戦えるはずだ――


 あくまでも僕個人の意見ではある。

 でもそんな微かな希望に縋りつかなければ心を保つことができない。


 ふと時計に目を向けるとすでに夜中の1時を回っていた。

 僕は震える手を一度強く握りしめ、痛みが続く足を引きずりながら、ベッドルームへと向かった。

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