第21話 11時18分 質問
僕がシャワーから出るとお茶と珈琲が用意されていた。
「どうぞ」
淹れたての香りは僕の麻痺していた鼻腔をくすぐりシャワー後のリラックスした体を労わっているようにも感じた。
「
「はい。それでは失礼いたします。それとこちらを」
そこに映し出されたホログラムは
アバターお披露目を経て公開されたということだろう。
「ありがとうございます。あの婦警以外にももう1人死んでいるんですね……」
「はい、こちらはチップ爆破ではなく、純粋にフォークで全身を刺された結果ですね」
淡々と受け答えするにも関わらず、微笑を崩すことがない。
とんでもなく整った顔でまるで能面が張り付いているかのようで、気味が悪い。
これならば機械的な澄まし顔のほうが幾分マシにさえ思えた。
「あの……普段のゲームでもここまで質問に答えてもらえるものなんですか?」
「ゲームの性質によりますが……質問が出る、ということは開催側としての落ち度の可能性もありますので。コンシェルジュにもよりますが、私の場合、まだこの担当になってから日が浅いですが、あえて情報を非公開にしている場合を除きフェアな質問であればお答えするようにしています」
あの
「なるほど……でもコンシェルジュによるとしたら統一されていないことじたいがアンフェアなんじゃ……?」
「いえ。コンシェルジュとのコンタクトもいわば個人配信と変わらない位置付けとなりますので。そしてコンシェルジュとして最低限のサービスは決められておりますが、情報の公開限度はコンシェルジュ自身に委ねられています。あまり知られることのないゲームの要素の一つとしてお考えください」
PTuberもゲームごとに違うんだし、こういう担当? 的な扱いも違うのは分からなくもない要素ではある。
「さらに言わせて頂ければ、みなさまゲーム参加者だけあって
先ほどまでの微笑が一転し、想像だにしなかった、まさに愕然という言葉がぴったり当てはまるほど眼を剥いた。
「申し訳ございません! 申し訳ございません!」
すぐさま椅子から膝で床に下りると額を文字通りカーペットに擦り付けながら謝罪の言葉を叫ぶ。
「配信されているわけじゃないし、配信されていても個人名はマスクされますよね? なので、別に大丈夫ですよ。なので顔をあげて、というか椅子に戻ってください……」
僕の言葉に顔を上げた
体を小刻みに震わせる姿は寒空の下で彷徨い続けた子猫のようだった。
運営側でも……いや、運営側だからこそ完璧の傍らに常に身を置く覚悟が必要なのかもしれない。
「――っ……まことに申し訳ございませんでした……あの……あっいえ……」
動悸が跳ね上がっていることが一目で分かるほどに肩で息をしている。
自らの手で左胸を握りしめているのは、鼓動を止めたいという願望の現れなんだろう。
暫しの間、部屋の中に響くのは
そこに大きく息を吸い、瞳を空けると
「貴重なお時間を浪費してしまい、重ね重ね申し訳ございませんでした。ご質問の続きをどうぞ」
落ち着きを取り戻したように思っているのだろうが、僕から見ると先ほどまでの能面のようなイメージはない。
予想外の表情を見たことでそっちに引っ張られているだけなのかもしれないけど……
あの
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