第7話 初心者簡易戦闘診断

「ほらほら、メガネ君。そんなビビった腰じゃ倒せる魔物も倒せないよ」


 初心者攻略配信は意外にウケた。

 最近視聴者も増えてきたから視聴者のニーズに合わせて動画を作ることを考えていた私にこの間のお礼がしたいと声をかけてきたメガネ君。

 

 私はメガネ君を見てピンときた!


 メガネくんは弱い。弱いメガネ君を成長させれば、初心者動画として十分に価値が上がるんじゃないか? そう思った私はメガネ君に聞いてみた。


「ねぇメガネ君。私ね、初心者講習の動画を撮ろうと思うの」

「ボクにまたカメラマンをさせてくれるんですか?」


 物凄く喜んだ表情で鼻息荒く問いかけられた。

 ちょっと、いや、結構キモい。


「キモいから離れて」

「あっ、すみません」

「じゃなくて、私の指導でメガネ君を強くする動画を作ろうと思うの」

「えっ? ボクを強くするんですか?」

「そう。もちろん、報酬はもらうけど」

「ボクにお支払いできるでしょうか?」

「強くなれば余裕でしょ」


顔を青くしたメガネ君はそれでも私の申し出を受け入れた。


「やぁやぁアゼ見皆、アクゼだよ。今日は新キャラ紹介だ!超冒険者初心者のメガネ君!」

「どっ、ドモ、メガネです」


 キモっ!どもって、言うだけで吃ってるじゃん。


「ちょっとキモいけど。本日から新企画だよ。アクゼが、メガネを冒険者として指導したら、ひ弱なメガネでも、一人前の冒険者になれるのか〜!お〜!」


 私が煽るとコメントでも、メガネのキモさと初心者を育てるという話題に盛り上がりを見せる。

 うんうん。反応があるっていいね。いつもはバッサリ切り捨ているけど。今日は優しくしてやろうかな?


「マジで弱いじゃん。戦うつもりある?」

「あっ、あります!」


 まずは視聴者に向けて、メガネ君の戦いっぷりを披露するためにゴブリンと戦わせてみたけど全然ダメ。

 コメント欄も、マジで弱いとか、弱すぎてヤラセとか言われてる。


「はぁ、まずはさ。メガネ君の戦闘診断からしようか」

「戦闘診断?ってなんですか?」


 メガネに言われて驚いてしまう。

 そんなことも知らないの?と思ってたら、コメントでも知らない人が結構多い。

 まぁ、冒険者以外は知らないのかな?


「えっ?初心者ってそれすら知らないの?まぁ、コメントくれる人らは冒険者じゃないから知らないのも仕方ないけどさ」


 何人かはコメント欄に冒険者もいるようだけだ知らないと言うコメントが増えていく。


「あ〜教えて教えてうるさい。教えてあげるから、ちょっと黙れ。初心者講習の動画だからって言葉を優しくするとか思わないでね。私は自分の好きなように教えるんだから。それが嫌ならどっか行けば?ここでは私が神だからね」


 いつもの決めセリフを言ったところで、私は気分を取り直してメガネ君を見る。


「戦闘診断は別に難しくないよ。例えば、心理テストを受けるような物で、簡単に質問をしていくから答えて」

「はい」

「メガネ君の身長と体重、それと運動経歴は?」

「身長は175センチ。体重68キロです。運動は、定期的にランニングとストレッチをしていましたが、格闘技経験や球技の経験は学生の頃しかありません」

「ふむふむ。次の質問。今は剣を使っているけど。どうして剣を選んだの?」

「冒険者と言えば、剣を使うものだと思ったので、他にはかっこいいと思って」

「ああ、ありがちだよね」


 私はありがちだと言うと、メガネくんが恥ずかしそうな顔を見せる。うん、キモいね。案外顔は悪くないのに態度がキモい。


「よし。これは簡易だから、質問は以上。続いては動きを見ていくね。魔物と叩くんじゃなくて、適当に動いて見て、走ったり、跳んだりね」

「えっ、あっはい」


 メガネ君が動き出して、普通にランニングして、跳んで、また走る。ボクシングのシャドーなどもやらせて見て、コメント欄でもメガネ君の弱さを理解して、これはヤラセではないなとコメントが溢れていく。


「うん。メガネ君。診断結果を伝えるね」

「はっはい!お願いします」

「才能なし。今すぐ冒険者を辞めた方がいいレベル」

「ガーーン」

「魔法の適性もないの?」

「あっ、それが水と回復なら適正があるって」

「なんだ。じゃ戦うよりもヒーラー向きだね」

「えっ?」

「何もさ、冒険者って戦闘だけをするわけじゃないじゃん。魔物と戦えない冒険者もいるわけ。その人たちの裏方としての仕事を覚えればいいと思うよ」

「なるほど。アクゼさんのカメラマンとか?」

「あんたバカ?キモいから絶対いや」


 メガネ君の下心全開とかコメントが流れ出して、意外に二人のやりとりはウケた。まぁ実際にヒーラーとして働いてもらいながらカメラマンは私にとって悪い話じゃない。


「とにかく、この企画は私が初心者に指導したら一人前になれるのかが大事だからね。簡易戦闘診断の結果、メガネくんは体力はあるけど。戦闘センスがないからヒーラーとして育てます。どう?みんなもできるでしょ?まぁ本当に診断してもらいたいなら、冒険者ギルドの受付で聞いたらしてくれるよ」


 今回は初心者向け動画なので、私は最後まで指導する形で配信を終えた。


「メガネ君。マジで戦闘は一人で言っちゃダメだよ」

「そこまでですか?」

「うん。死にに行くようなものだね。完全に向いてない。あと。武器もヒーラーなら剣じゃなくて。棍棒とか、杖とか、棒。あとは短剣にした方がいいよ。それらの方が使いやすい」

「あっはい!ご指導ありがとうございました」


 メガネ君にもちゃんとした指導をしてあげた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る