運命のアンラッキー

クロノヒョウ

第1話



 ホテルのレストランの椅子に座るとすぐにため息がもれた。


 本当に今日はついてない。


 朝起きて、この婚活パーティーのために用意したワンピースをクローゼットから取り出すと袖の部分に穴が開いていた。


 ワンピースは諦めてシャワーを浴びた。


 頬が痒いと思って鏡を見るとバスルームに蚊がいたのか見事に刺されていた。


 いつもは髪を乾かして上手にセットできるのに何故かうまくいかず何度もやり直していたら時間がせまりメイクも中途半端になってしまった。


 結局何もかも普段と変わらない格好で電車に乗った。


 途中で非常ボタンが押されたとのアナウンスが入り十五分ほど電車がとまった。


 婚活パーティーに遅れるなんて恥ずかしいからと駅から走ったら見事に靴擦れをおこした。


 なんとか間に合ったと思って受け付けに駆け込むと何かの手違いで私の名前がなかった。


 私は慌ててスマホの予約画面を開いて見せた。


 申し訳ありませんでしたと言われながら会場のレストランに通され今にいたる。


 三十歳になるまでには結婚したいからとガラでもない婚活パーティーなんかに参加しようと思った。


 私の周りの男の人たちはまだまだ二十代を満喫していてチャラチャラしている子どもにしか見えない。


 もっと真剣に将来を見据えてお付き合いしたいと思った私が間違っていたのだろうか。


 現に目の前の男の人の胸には『スーパーハッカー』というユーザーネームが書かれた名札が付いている。


 きっとコンピューターに詳しいオタクなのだろう。


 見た目もそんな感じだし声もぼそぼそとしていて何を言っているのかわからない。


 また無意識にため息がもれた。


 やっぱり今日はついてない。


 どうやら何分か時間が経つと男の人が移動するようで、次に目の前に座ったのはシュッとした背の高い爽やかな男の人だった。


「あれ、もしかしてそれ、蚊に刺されました?」


「えっ? ああこれ?」


 私は慌てて頬を触った。


 まだ刺された所がぷっくりしているのがわかった。


 恥ずかしい。


「俺も今朝同じところ刺されたんだよね、ほら」


 そう言われて見ると、本当に私と同じ右の頬がぷっくりと腫れていた。


「……ふっ……あはっ。本当だ。同じですね」


「ははっ」


 彼も恥ずかしそうにしながら笑っていた。


 ふと胸の名札を見た。


「アンラッキーセブン……さん?」


「はい。君は……えっ?」


「私も、アンラッキーセブンです」


 私はさっき受け付けで適当に書いた名札を彼に見せた。


 手違いで私の名前がなかったからその場で思い付いたユーザーネームを書いたのだった。


「すごい……偶然……?」


「どうしよう。なんか俺、運命感じちゃってるんだけど」


「うん、私も……です」


 今日は朝からついてないと思ってやけになって書いたユーザーネーム。


 同じ頬を刺されていること。


「もしかして、電車遅延したり……」


「そうそう! それで走ったから靴擦れしちゃって」


「俺も俺も! 慌ててたら転んじゃってさ、ほら」


 彼が見せてくれた足首は少し腫れていた。


「あはっ、本当だ」


「ははっ。俺たち本当に運命かも」


「ふふ、私もそんな気がしてきました」


 私たちはそっと会場から抜け出した。


 人生でラッキーとアンラッキーの数は同じだと誰かが言っていた。


 ついてないことがあった後はきっといいことがあるはず。


 これからどんないいことが起こるのか。


 アンラッキーセブンが二人になるときっとめちゃくちゃラッキーになるだろう。


 そう祈りながらアンラッキーセブンさんと二人で足を引きずりながら歩き始めた。



           完




 

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