2.恋愛作戦編

Mission13 (今更)ライバル登場!?

 そこから我が家で過ごすあと1日は、とても優雅なものでしたわ。

 ティータイムを楽しんだり、お勧めの図書を紹介したり、談笑に談笑を重ねましたわ。ああ、とても良い時間でしたわ……。


「いえ、お嬢様、そのほとんどは顔を背けていらっしゃったではないですか」

「い……いいいいいいえ、そんなことはなくってよ」

「言葉から震えが隠しきれていませんよ……」


 きちんと謝罪を済ませ、すっかりいつも通り……いえ、前より更に距離が近くなったメイドと、そんな会話を重ねます。学校へ向かうための衣服を着用し、メイドに髪をいてもらいました。


「せっかく今日は音宮様とご登校なさることが出来るんですから、私たちが居なくても頑張ってくださいね、お嬢様」

「わっ、分かってますわよ! わたくしは、れ、れれれ、恋愛だって、一切妥協しませんわ!!!!」

「お嬢様……ご立派になられて……」

「心がこもっていなくってよ!!!!」


 差し出された鞄を引っ手繰たくる様に受け取り、わたくしは鏡の前で襟を整え直します。そして深呼吸を済ませてから、部屋を出ました。


 わたくしはいつも車で通学しています。ですので今日も車に乗り込むため、門の方へ向かいましたわ。……門が見えてきた、その時に……車と同時に、音宮先輩の姿もあって。


「氷室さん! おはよう」

「おっ! ……おはよう、ございます……」

「それで……こんな立派な車に俺まで乗せてもらっちゃって……大丈夫なの? 俺、すごい心配なんだけど……」

「もっ、問題ありませんわっ。そもそも、こちらの不手際で先輩はこちらにいらしているのですから。最後まで世話は致します」

「そっか……」


 ……それより、少し離れてほしいものですわ……朝から心臓が保ちそうにありません……。


 数々のメイドに見送られつつ、わたくしたちは車に乗り込みます。走り出したところで、ピロリン、と軽やかな着信音が鳴り、スマートフォンを確認すると……。


『お嬢様、あまりうかうかしていますと、ぽっと出の女性に持っていかれたりしますからね』


 余計なお世話ですわ、と、わたくしはすぐさまスマートフォンの電源を切りました。





「あれ、音宮くん、登校の仕方変えたん?」

「あ、おはよー、副会長」

「…………………………」


 明け星学園の校門の前まで辿り着き、降りて早々、そんな風に声を掛けられました。その声には、聞き覚えがあります。……音宮先輩も言っていたように、そこにいたのは、生徒会副会長。

 両手を深紅色のパーカーのポケットに突っ込み、飄々とした態度で、そこに立っています。


 ……整った顔立ち、ぱっちりとした大きな瞳、人の信頼を集めそうな笑顔、女性特有の2つの膨らみ、ショートパンツから覗く白く細い脚……。


 やはりこの方、女性でしたのね……いえ、それより……。


 わたくしの視線に気が付いたのでしょう。彼女はわたくしと目を合わせるなり、軽やかに手を振って、肩を組んできました。


「文那ちゃん~っ、おはよっ!」

「なっ……なんですの!? おはようございます!!」

「抵抗はしつつも挨拶は返してくれるんだねぇ……あははっ、面白い子~!!」

「……馬鹿にしていますの?」


 わたくしがその手を振り払いますと、彼女は手を叩いて笑いました。それはそれはオーバーリアクションで。……思わずわたくしの額に、青筋の様なものが浮かびます。


 そしてわたくしが苛ついてきた気配を察したのでしょう。音宮先輩が、わたくしと彼女の間に割る様に入りました。


「ご、ごめん氷室さん、、こういうやつなんだよ」

「……こいつ……?」


 その馴れ馴れしいまでの口調に、余計にわたくしの苛立ちが増します。……これは物の例えですが、もしわたくしが扇子を持っていましたら、片手でへし折っているでしょう。


 ……わたくしより、こんなふざけた女の方が親しいと言いますの……?


 そう思いつつ、彼女の方に目を向けると。


「……ふぅん?」


 彼女の目が、すぅ、と細まります。それはまるで、「面白いものみーつけた」、と言わんばかりの……。


 しまった、と思った時には、後の祭りでした。


「……ねぇ、音宮くん」

「え? 何?」


 副会長に肩を掴まれた音宮先輩は、そのまま彼女に顔を近づけます。そして副会長は……なんと、わたくしに目配せし、ニヤリと笑ってから、何かを耳打ちしたではありませんか!


 なっ……何なんですの!? この女……!!


「……分かった。でも、そんな重要でもないことをわざわざ耳打ちした理由は……?」

「まあまあ、詳しいことはいーじゃんっ、ほら、レッツゴー!! ……あっ、文那ちゃん、まったねー☆」

「あ、氷室さん、それじゃあ、また」


 そう言うと、2人は仲睦まじく隣を歩き、去って行ってしまいました。


 一方、取り残されたわたくしは……。



 ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?



 心の中で盛大な悲鳴をあげ、メイドの『お嬢様、あまりうかうかしていますと、ぽっと出の女性に持っていかれたりしますからね』という言葉が、今更ながら染みるのでした。

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