Mission4 春の星空観察会

 さて、改めて状況を整理しましょう。


 わたくし、氷室文那は、異能力の代償である「不眠」に悩まされていましたわ。


 しかし、それを解消してくださってくれるかもしれない殿方に、わたくしは出会いましたの!!


 それはわたくしより1つ年上の……音宮鳴子先輩。


 先日、ひょんなことからわたくしと彼は出会い……そしてわたくしは彼の歌声を聴いて、あっさり眠りに落ちることが出来ましたわ。


 どうにかして、彼の歌声を半永久的に手に入れたいと思いましたの。わたくしの今後の安眠人生のために!!


 その後、わたくしは彼との接触に成功し、無事に連絡先を交換……。

 そしてメイドたちの会話を聞き、わたくしは閃きましたわ。



 ──そうですわ、私に惚れさせて、私と四六時中一緒に居たいと思わせればいいではありませんか!!



 ……と!!



 そういうわけでわたくしは、彼をわたくしに惚れさせるべく、行動を開始することにしましたの……!!





 そしてわたくしは今、明け星学園の屋上で行われている、春の星空観察会……とやらに来ていますわ。


 ここは都内某所……当然街の光が激しく、観えないものだと思っていましたわ。しかし、実際にこうして来てみれば。目の前に広がるのは満点の星……まさか都内でここまでの星空が仰げるとは、思ってもみませんでしたわ。


 ……えー、なになに? 脳内図書館ビッグデータで取り出した本、「明け星学園の軌跡」によると……。春・夏・秋・冬、と1年に4回行われるこの観察会は、「天候を操る異能力者」、「光度を操る異能力者」、「当時の生徒会長」、「当時の理事長」の4人によって始められた会である……。そう記してありますわね。あら、結構昔から続いているのね。


 ……いえ、そんなことはどうでもいいですわ。



『えー、皆さん、屋上にお集まりいただけましたでしょうか。時間になりましたので、「春の星空観察会」、開会させていただきたいと思います』



 そう、司会は音宮先輩! 先日の電話の件……どうやら引き受けたみたいですわ。

 それはわたくしも、『俺が司会をすることになったんだけど、良かったら来てねー』というメッセージで、初めて知ったのですが。


 善は急げ、ということで、先輩にわたくしに惚れさせるための作戦を始めたいと思っていましたからね! 絶好の機会だと思い、『会がどのような仕上がりになっているのか、私が見極めて差し上げますわ』と、それを快諾しましたの。


 ……ですが……。


『司会は俺、2年A組の音宮鳴子が、、精一杯務めさせていただきます! 皆さん、よろしくお願いします~』


 そう、音宮先輩の姿は屋上ここにはありませんの。放送室に向かおうかとも思いましたが……委員会関係者以外は立ち入り禁止だと言われてしまいましたの。悔しいったらありゃしませんわ。ハンカチを噛み、その衝動を抑えました。


 ……ああ、でも今は、この心地良い声が聴けるだけ、ありがたいと思うことにしましょう……。


『一応開催場所は屋上、ってことになってるけど、別に校庭とか校内とかでもいいからね~。でも屋上には望遠鏡とかもあるんで、もし興味がある人は屋上へ集合!! 途中参加も途中退室も自由だからね~。……まあ屋上って部屋じゃないけど』


 音宮先輩のその言葉に、周りにいらした方々がドッと笑いました。思わずわたくしもクスッと笑います。

 ……こうしているのも、ラジオを聞いているみたいで良いですわね。


『それじゃ、今回も例年通り「春の星空観察会」の開催を助力してくださった生徒会長から一言……と言いたいところですが、丁重に辞退されてしまったので、代わりにはちゃめちゃうるさい生徒会副会長、どうぞ』

『はちゃめちゃにうるさいって、酷くない!?!?!?』


 キィィィィィィン、と音が響きました。思わず両耳を塞ぎます。……こういう音は、寝不足にはよく響きますのに……!!


『言ってる傍からはちゃめちゃにうるさいじゃん!!』

『えっ、僕的にはこれが正常なんですけど』

『それで正常は人間拡声器……いえ何でもないです。夜なんだから、気持ち声量抑えて!』

『えー』


「いちゃつくなそこー」


 誰かが本人たちには全く聞こえなそうな野次を入れました。……確かに、音宮先輩と副会長……仲睦まじげなご様子……。


 ……くだらないことを言い合っている暇があるのなら、さっさと話を先に進めてほしいものね、生徒会副会長とやら!


『音宮くんは真面目だねぇ……はーい、生徒会副会長だよっ☆ 音宮くんの素敵ボイスで、皆寝ちゃわないよーにっ! さっきちょっと原稿見させてもらったけど、とってもいい解説になってるからちゃんと聞いて、地学を取ってる人は活かすこと! 以上~』

『……はーい、ありがとうございましたー……』


 げっそりしたような声色で、彼はお礼を述べます。……生徒会副会長とやら、口調はふざけたものであり、不愉快極まりないものでしたが……言ってることは、比較的マトモでしたわね……。

 ……音宮先輩の声が素敵だと言うその着眼点も、好評価出来ますわ。


『それじゃ、気を取り直して……解説を始めていきたいと思います。……まずは東……校庭側をご覧ください──』





 そこから約15分、1秒たりとも退屈しない解説を聞くことが出来ましたわ。もちろん紹介された星座全て、わたくしは熟知しているものでした。ですが……彼の声で解説を聞いていると、全てが初めて知ることみたいで……とても、心が躍りましたわ。そんな体験をさせてもらいました。


 ……さて、ここから自由時間ということですが……わたくしはどうしましょう。望遠鏡にはそれなりに長い列がありますし。……まあ家にはあれの4倍ほどの望遠鏡がありますし、興味もありませんが。


 ……このままいても仕方ありませんわね。折角学校に居ることですし、自習でもしてから帰宅いたしましょう。

 そう思いわたくしは、屋上を1人、後にしました。

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