７７７（スリーセブン）は不運な数字

７７７（スリーセブン）は不運な数字

「犯人は、貴女（あなた）です」

　いつも通（どお）りの陳腐（ちんぷ）な宣告（せんこく）。事件の容疑者を集めて私が推理（すいり）を披露（ひろう）し、真犯人を特定する。警察に引き渡される彼ら彼女らは当分（とうぶん）、社会に戻れない。

　私に特定された真犯人が、宣告（せんこく）から七秒後（ななびょうご）、蒼白（そうはく）な顔で逃げ出した。珍（めずら）しい事では無くて、「追います」と私の女（バ）執事（トラー）が後（あと）から駆（か）ける。私には特技（とくぎ）があって、体内（たいない）時計（どけい）で正確に秒（びょう）を刻（きざ）む事ができた。

　七十秒後（ななじゅうびょうご）、執事（しつじ）が犯人を取り押さえて戻ってくる。連絡しておいた警察が来て、顔馴染（なじ）みの警部に引き渡して私の仕事は終了。私の宣告（せんこく）から七分後（ななふんご）の事だった。

　車椅子（くるまいす）に座（すわ）る私を女（バ）執事（トラー）が押して移動する。人（ひと）目（め）に付かない所で止まって、「お嬢（じょう）様（さま）……」と私を気遣（きづか）う。「また、人を不幸にしました」と言う私の正面へ彼女が回る。

「犯罪者の幸運や幸福は、他（ほか）の者（もの）の不運や不幸となります。強く生きてください、お嬢（じょう）様（さま）」。そう彼女は言った。

　幸運や幸福は、誰（だれ）かの不運や不幸に繋（つな）がっているのではないか。昔から、そう私は考えてきた。それは幼（おさな）い頃（ころ）、両親と共に事故（じこ）に遭（あ）って、私だけが生（い）き延（の）びたからだろう。

　歩けなくなった身体（からだ）と莫大（ばくだい）な遺産（いさん）を得（え）て、羨望（せんぼう）や憐憫（れんびん）、妬（ねた）みや憎悪（ぞうお）といった様々（さまざま）な周囲の想（おも）いに囲（かこ）まれてきた。今、私を励（はげ）ましてくれている彼女が居なければ、ここまで私が生き続ける事もできなかった。

　幸運と不運、幸福と不幸は表裏（ひょうり）一体（いったい）だ。私は知っている。私が事故（じこ）で生（い）き延（の）びたのは、身（み）を挺（てい）して両親が守ってくれたからだと。私の幸運は、両親に与えられたものだった。誰（だれ）かの犠牲（ぎせい）や誰（だれ）かの不幸の上に、私の幸福がある。

　歩けなくなった事は不運かも知れない。しかし私が健（けん）常者（じょうしゃ）だったら、この女（バ）執事（トラー）は果（は）たして今ほど深く私を愛してくれただろうか。これも私の幸運であり、幸福だ。

　７７７（スリーセブン）は幸運の数字と良く言われる。しかし７７７秒（びょう）は、ほ（・）ぼ（・）１（・）３（・）分（・）だ（・）。不運を私は届け続ける。宣告（せんこく）から７７７秒後（びょうご）、私と執事（かのじょ）は熱（あつ）いキスを交（か）わした。