スポーツ面からの

白部令士

スポーツ面からの

 日曜日の午前中。

 居間で新聞を読んでいた。スポーツ面に昨日行われたプロ野球の試合結果が出ている。そのうちの一試合に目がとまる。

「6回まではゼロで抑えていたのに、7回に4失点か。エースだとしても、引っ張り過ぎだな」

 と、知ったようなことを口にする。一応、応援している球団はあるものの、スタンスは微妙だ。私自身が少年野球のチームに入っていたとか野球部だったとかではないのだ。友達と野球をして遊ぶなんてことも殆どなかった。テレビゲームはやったけれども。

 そういえば、昔遊んだ野球ゲームで「ラッキー7の攻撃です」なんて音声が流れていた気がするな。であれば、守備側からすると『アンラッキー7』になるのかな。……どうでもいいか。


「父さん、新聞になにか面白いことでも載っていたの?」

 息子の宗隆むねたかが私の顔を覗いている。どうやら、笑んでいるように見えたらしい。

「いや、別に。スポーツ面を見ていただけだよ」

「ふぅん。野球、だね」

 と、新聞に視線を落として宗隆。簡素な感想、だ。

 息子は小学5年。クラスの友達に一人二人は少年野球のチームに入っている子がいるんじゃなかろうか。だのに宗隆は野球に興味がないようだ。

 思えば、宗隆とキャッチボールをしたこともない。いや、さすがにそれは……いや、自信がないぞ。野球の話題は盛り上がる筈、学校で浮いたりしていないか心配だ。


 午後3時。おやつの時間に合わせて居間に行く。丁度、宗隆がドーナツを噛じっていた。

「野球、どうだ?」

「どうって?」

 早速、切り出したのだが。宗隆に怪訝な顔をされてしまう。

「ボールぐらいはあったかな? バットやグローブも買って公園で遊ぼう」

「いや、いいよ。そういうのは。野球してもいい公園、近くにないし」

「そうかぁ……。バット、庭で振るだけでも楽しそうだぞ」

 エアでスイングしてみせる。

 宗隆は静かに頭を振る。

「バットは止しとく。――振るなら木刀がいい。物置に、父さんが昔使ってた剣道の道具があったよね。もう使わないなら、あれが欲しい」

 思いもよらないことを言われた。間合いを詰められたことに気付かぬまま、面打ちを食らった気分だ。剣道の話なんて、今までしたことがなかったのに。母さんからなにか聞いたのかな?

 そうか、そっちに興味があったのか。

 嬉しくなった。剣道なら、教えてやれることもありそうだ。

               (おわり)

 

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スポーツ面からの 白部令士 @rei55panta

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