富籤(とみくじ)に外れた二人

井田いづ

第1話

「くそう」


 木戸番の小太郎と貧乏浪人の昌良は、辛気臭い顔を付き合わせていた。二人の前に置かれた紙切れは先日の富籤とみくじの掛け紙だった。書かれた文字は「布袋 捌番八番」──外れくじである。

 二人は金を出し合って籤を買おうと言うことにしたのだが、


「ンで、何番にしよう」

「若い番号、この際だ、一桁なんかにしないか?」

「いいぜ。一番だとなんかな。ご利益にあやかって七福神の──いや、それの七番ってのも出来過ぎだよなァ」

「おれもそう思う。ゆえにひとつずらして……」

「ヨシ、布袋の八番はどうだ!」

「布袋は賛成だな。しかし六番の方が良いのでは?」

「あえて五番」

「いやいや」


と散々議論したのだが──結果、一番富は布袋の漆番七番。他の当たり番号も七がつく数字が多い様な気がして、二人とも七番を早々に切り捨てたことを後悔することになった。

 二人の番号は最後まで突かれることなく終わったのである。


「今頃料亭でサ」

「ああ、旨い酒に料理に舌鼓打って」

「どんちゃん騒いでヨ、旅行なんぞ行ってたかもしんねェのに」


故に揃ってがっくり肩を落としているわけだ。


「なァ、小太郎よ。百両あったら何がしたい」

「おれはやっぱり旨いモンが食いてェな! あとは吉原に出掛けたりも楽しいかもしれねェが、それよか上方に旅行なんぞも良い。昌良はどうなんだい」

「おれは酒だ。ひねもす誰に指さされることも明日の心配もなく旨い酒をたらふく飲むこそ、我が夢よ」

「ははは! 昌良、おめェ、しようもない奴だな」

「ふふふ、まァ、夢は夢なのだがな……」

「外れたモンな……」


顔を見合わせ乾いた笑いを溢した。どちらからともなく酒の準備をする。つまみはない。


「夢見るのに使っちまったからよぅ、しばらくは安酒で我慢しようぜ」

「仕方あるまい。七を買っておけばよかった……」

「しばらく七は不幸な数字だな」

「おれたちにとってはな……」


二人はチビチビと酒を飲み始めた。

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富籤(とみくじ)に外れた二人 井田いづ @Idacksoy

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