短編85話  数あるあたしもう強いんですけど

帝王Tsuyamasama

短編85話  数あるあたしもう強いんですけど

「ふんっ! ふんっ! ふんぬっ!」

 ベッドにもたれながら、魔法少女物の少女マンガを読んでいるあたしの横で、暑苦しく腕立て伏せしているのは、八見刈やつみがり げん

 同級生で、小学生のときからあたしの部屋で遊ぶ仲。昔はあたし、スカートもう少し短かったなぁ。

 部屋を汗まみれにされるのは嫌だから、花柄で大きなタオルを二枚並べて、腕立て伏せしたいならそこでしてと言った。それでもしたいのねあなた。

 予備でもう二枚、あたし、雪坂ゆきざか 麻奈代まなよの左隣に置いてある。

 窓? もちろん開けているわよ。でも寒いのか暑いのかよくわからない。光景と音声は非常に暑苦しい。

「あのさ玄」

「なんっ! だっ! ふんぬっ!」

「あたし。この前の大会で、優勝したんだけど」

「ふーっ。それがどうした? んぐっ」

 前にあたしの部屋を、変なミックスジュースのにおいにされたから、あたしの家にある、味の薄いスポーツドリンクを渡してある。1リットル。もうなくなりそう。

「たぶん、玄より強いよ。あたし」

 あ、なくなった。

「……だからどうした?」

「いや、へたな強盗とかに襲われても、返り打ちにできるかなーって」

 しょうがないから、予備のタオルを一枚渡した。すぐに顔や頭を拭きだした。

(実際に出くわしたら……やっぱり怖くなるかな)

 でも距離があったら逃げるって、護身術の人言ってたな。

おとこのオレは、女のお前をあらゆる災厄から守るだけだ。お前がどんな大会で優勝しようと、オレはお前を守る。もう忘れたのか?」

「はいはい、覚えてますよ」

 あたしは読みかけの少女マンガをベッドの上に置いて、空のペットボトル回収しまーす。どうせまだ続けるんでしょ? まだ続けるんですね。

「次のっ! 飲み物っ! 持って! きてくれっ! ふんぬっ!」

「はぁっ……まったくもう……」

 次の飲み物を持ってきてあげるべく、あたしは立ち上がった。

 どうせ思わず口元が緩んじゃったところなんて、見えてないくせに。

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短編85話  数あるあたしもう強いんですけど 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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