女二人。焼肉屋で肉を焼く。
妹
第1話
「牛すじのすじってさ」
ミオが牛すじ煮込みの牛すじをじっと見つめて言う。
焼肉屋なのにここの牛すじ煮込みはうまい。
「あ?」
「ひんにくのひん?」
ミオは牛すじを頬張りながら言う。おそらく『
「多分そうじゃない?」
知らんけど。
「筋肉ってうまいのかー」
ミオはじっと私を見てくる。
「カオルって最近筋トレにハマってるって言ってたよね?」
「私は不味いぞ」
「焼いたらいけそうじゃない?」
「無理だろ」
「ボディビルダーってみんな焦げるまで焼いてるじゃん」
「直火で焼いてるやつはいねえだろ」
そもそも焼いてるの意味が違うし。
「大体人の筋肉を焼いて食べる話とか気持ちわりぃからやめろ」
カニバリズムの話とか焼肉を食べている最中にする話じゃない。
「じゃあなんなら焼いていいの?」
「目の前の肉を焼け。牛のな。牛の」
「それは焼いてるけど、私もカオルみたいに色々焼きたい」
「豚肉、鶏肉、野菜も焼け」
そう言いながら私はいい感じに焼けた肉をミオの取皿に乗せていく。ミオは話に夢中で網の上のことまで気が回っていない。
「ありがと! でも、ほら! カオルは焼いてる!」
「だから肉焼いてるだろ」
「違う! 私の世話を焼いてる!」
「じゃあもう焼かない」
網の上にはミオが乗せたままの肉が数枚残されている。
「そうは言うけどさー」
ミオは私が焼いて私が取皿に乗せてあげた肉を美味しそうに頬張る。
「私の世話を他の人が焼いてたらカオルいやでしょ?」
「いや、別にいやじゃないけど」
むしろそういう人が現れてほしい。
「またまた~。焼いてるでしょ? 餅」
「焼いてねえよ」
あとドヤ顔やめる。
「またまたまた~。例えばさ私があのイケメン店員さんに声かけちゃったりしたら。焼いちゃうでしょ。餅」
倒置法で餅を多用してくるな。鬱陶しい。
「すいませ~ん!」
ミオは本当に店員を呼んだ。別に注文をしたいものもないのに。
「はい。お待たせいたしました」
来るの早。全然待ってない。
「牛すじって筋肉ですか?」
わざわざ店員呼びつけて何聞いてんだ。
「アキレス腱になります」
「腱? 筋肉じゃなくて?」
「腱です」
店員もわけわからん質問に真顔で答えてる。プロだ。
「ありがとうございます。あとトッポギください。以上です」
どさくさに紛れて頼むな。餅を。
「はい。トッポギですね。かしこまりました」
そうしてイケメン店員は去っていった。
「焼いた? 餅」
「焼いてない。餅」
「ていうか牛すじは筋肉かって話だよね」
ミオは真剣な顔をして椅子に座り直し、手を顔の前で組む。網の上ではミオの肉がジュウジュウと音を立てている。
「話の筋がそれすぎた。本筋に戻そう」
急に筋張った話し方にしてきたな。
「牛すじのすじは筋肉の筋ではありませんでした」
「みたいね」
「牛すじのすじは筋肉の筋ではありませんでした!」
ミオはテーブルをバンと叩き怒りをあらわにする。
「ごめん」
面倒くさいからとりあえず謝っておく。
「いや、私こそごめん」
そして一瞬で怒りは止んだ。
「牛すじのすじがなんなのかでカオルを怒るなんて……筋違いだよね」
「やかましい」
肉は焦げた。
女二人。焼肉屋で肉を焼く。 妹 @imo012
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます